ソフトランディング?

ソフトランディング?

◆源泉分離課税
 景気下支えを目指した総事業費十一兆円にのぼる政府の経済対策の決定を翌日に控えた
11月18日、自民党の亀井静香政調会長は、党本部に財務省の主税局幹部を呼び付けて
一喝した。「何を勝手に動き回っているんだ!」
 亀井氏は前日、森喜朗首相、自民党税調の武藤嘉文会長と、住宅ローン減税の拡充、相
続税減税とともに、個人投資家の株式譲渡益課税について源泉方式の存続を盛り込むこと
で合意している。これを伝え聞いた主税局幹部は、武藤会長以外の自民党税調幹部に、経
済対策に具体的な税制改正項目を書き込むことは避けるように働きかけた。結局、自民党
税調は政調側に慎重な対応を求め、経済対策が抽象的な表現にとどまったことで、亀井氏
は怒りを爆発させたのだ。
 個人投資家の株式譲渡益課税は、本年4月には、株式売却額の一定割合を売買益と見な
して所得税をかける源泉分離方式と、実際の売却益に課税する申告分離方式の選択制が廃
止され、申告方式に一本化される予定だった。
 しかし、投資家に有利な源泉方式の存続を強く求める証券業界の意向や景気回復にダメ
ージが大きいとの観点から、昨年12月7日に、森首相は亀井氏や武藤氏らに対し、税制
改正作業を求め、早期に結論をまとめるように指示をした。
 これによって、経済対策で後退した源泉方式問題は、自民党税調での税制改正論議が本
格化する前に、存続させるという流れが固まった。
 個人投資家の市場離れを懸念する証券業界による攻勢、景気回復を最優先に課税方式の
変更が株式市場に影響を与えることを避けたい与党の思惑の前に、強硬に反対している財
務省の抵抗は封じられた。
 12月2日には、金融庁が譲渡益課税をめぐる源泉方式と申告方式の選択制を当面維持
するように求める税制改正要望を発表した。これは、事前に自民党税調側に伝えられ、了
承を得ていたものだ。
 金融庁の税制改正要望によると、取引ごとに課税方式を選べる現行制度は見直し、あら
かじめ源泉か申告かの課税方式を選び、年間を通じて変更を認めない「年間選択(事前選
択制」の導入を求めている。
 「売却益があれば源泉、売却損が出た場合は申告を選べるという現在の仕組みは、世界
でも類をみない投資家優遇」(財務省幹部)とする批判にこたえたものだが、その一方
で、年間選択制の導入と合わせて、申告方式の税率を現行の26%(うち住民税6%)か
ら20%(同5%)に引き下げることも求めている。源泉方式で20%課税される預貯金
の利子と株式譲渡益の申告方式の税率を並べることで、株式投資に過重な税負担がかかる
のを避けるのが狙いだ。
 この案に対し、財務省側は、いつでも売却できる株式と預入期間が決まっている預貯金
を同列には論じられない、などといっているそうだが、これは金融庁の方が正しい。同じ
短期当座資産であれば当然のこと。日本証券業協会などは、源泉方式の存続期間について
「総合課税が導入されるまで残すべきだ」という主張であるが、これはこれで大人の論理
だ。証券業界は、納税者番号制の導入が難しい事情をわかったうえで、総合課税化まで源
泉方式を存続させることを求めているからである。
 他方、金融商品からの所得や給与所得など、全所得を通算して一律に課税する総合課税
の導入は、自営業者らの課税逃れを封じることにも有効とされ、財務省の悲願だが、総合
課税を導入するには、個人ひとりひとりの全所得を把握できる納税者番号制を設ける必要
がある。だが、納番制には「国民総背番号」につながるとの批判が強く、導入は容易では
ない。(というより、総背番号制はさけるべき問題である。人間を番号で管理をしてはな
らない。役人の発想の原点には「国民を管理する」という妄想があるので要注意だ。)
◆株価と日本の進路
 日本の株価は、低迷のまま年末を迎えた。株価を大きく左右する米国経済の減速懸念や
金融機関などの持ち合い株解消売りなどは本年1-2月に向けてさらに加速するとして、
市場では「3月危機説」がしきりに唱えられている。その一方で、3月危機は“序章”に
過ぎず、「本当のどん底は夏以降にやってくる」と警告する声も上がっている。平均株価
は昨年末にバブル崩壊後の最安値となる1万2500円台まで下落するなど、株・円・債
券のトリプル安が日本を襲い、いよいよ、ゼネコン・流通などは銀行からの借金を銀行の
債権放棄で特別利益に処理することができなければ大型倒産が避けられない状況になって
きた。
 そもそも昨年末の株価はなぜ下がったのか。4月の銘柄入れ替えやIT(情報技術)バ
ブルの崩壊、米株安に伴う外国人投資家の日本株売り、銀行の持ち合い解消売りなどがあ
るが、最大の要因はバブル崩壊後の政治と政策不在の問題。外国人投資家から見ると、日
本の政治の決定権がどこにあるのかまったく理解できない。これが外国人が投資に慎重な
理由の一つ。つまり自民党政権が、外国人売りや円安といった“日本売り”を招いている
のである。困ったことは、自民党政権に代わって野党が政権を担当すればそれでよいのか
ということだ。基本的な仕組みを変えないことには、政権のたらい回しと、政情不安が増
幅するだけで何にもならない。基本的には憲法改正と国の行政機関の長の選出法の仕組み
を変える具体的な手だてまで行き着かないと、この問題は解決しない。
 金融機関の持ち合い株解消売りも、今年の1月から2月がピークとなるといわれてい
る。また、日本の株式市場を大きく左右する米国経済も、昨今のナスダック(店頭市場)
総合指数の下落が示すように、減速が懸念されている。こうした要因が株価を急落させ、
多額の不良債権処理が進まないまま、こらえきれなくなった企業の大規模倒産につながっ
ていくというのが「3月危機」説の主な根拠になっている。
 一方で、米連邦準備制度理事会(FRB)のグリーンスパン議長が、本年1月の連邦公
開市場委員会(FOMC)で利下げに踏み切ったことから、米国株が再び上昇基調を取る
との見方もある。国内でも好調な業績の企業も多く、「1万6000円台を目指す」(準
大手証券)との楽観論もある。だが、そんなに甘いものではないだろう。
 4-6月は米経済が減速する影響を受けて下落、円安で輸出ドライブがかかるものの、
米国経済が昨年の活況とうって代わってソフトランディング路線だ。新ブッシュ政権が共
和党をバックにしているものの、大統領選の極めてクロースな(きわどい)勝ち方を見て
も、慎重な国外政策になる。したがって、仮に米国経済が実体経済の急降下でドルの信認
が低下となれば、実体経済の更に悪い日本株は敬遠され下落を続けるというシナリオにな
る。ただ、将来の日本経済の再生のためにはどうしても通らなければならない関門点では
ある。
 また、金融機関の2002年のペイオフ解禁だが、地銀や第二地の銀、信用組合など中
小金融機関の預金が大手都銀や郵便貯金に移動し始める、という一部評論家的発想がある
が現実は逆になることもある。なぜなら、この数年間の超低金利で国民の預金、中小企業
の預金は金利の少しでも高い地銀や第二地銀、信用組合などにシフトしていくことが考え
られる。金利以外の小口融資を巡る対応の違いからも、そういった現象が赤裸々に起きて
くるのではないか。消費者は決して無口ではなくなってくるのが21世紀型の傾向である
からだ。つまり、大手、中小の垣根の差が低くなってくるのが特徴だ。
 銀行にとって預金は負債勘定であるから、何らかのきっかけでいったん株価が下落する
と、含み損が発生する。大手各行は、BIS規制(自己資本比率)を維持するため、企業
への融資を更に絞ってくることが予想される。そうなると、ゼネコンや流通など巨額の有
利子負債を抱えた企業への債権放棄にも応じることができなくなる。公的資金の注入も年
度末の3月でストップされる中、不良債権と含み損を抱えた金融機関の再度の淘汰・再編
に発展することが必定である。
 今年の経営者の発想は、何よりも発想の転換、逆説を行く、という心構えが大切とな
る。株価の低迷も、実体経済の悪さからやむを得ないことと割り切り、将来の変化を誘う
姿勢で、政権交代をあえて誘導する、バラマキをやめて小さな政府に移行さすためのあら
ゆる抵抗をする、それを7月の参議院選に向けて押し進めたらどうだろうか。自民党が政
権を放棄した場合、株価は一直線に急騰する、というくらいの千里眼発想を持った経営マ
インドが望まれる。自民党はもはや日本を代表する良識の党ではなくなっている。我が党
こそが国民主権党であるといえるものがなく、官僚組織との結合度の最も高い党であるか
らである。したがって今年は、日本にとって森首相がよく使う言葉の「正念場の年」とな
る。
来週以降は、少し、首相公選制について書き進めてみたい。
備考:
<株式譲渡益課税> 現行の税制では、個人投資家が株式売買で得た株式譲渡益は、他の
所得と切り離し、取引ごとに源泉分離課税と申告分離課税を選択する。源泉方式は株式売
却額の5.25%をみなし利益とし、その20%(売却額の1.05%になる)を証券会
社が源泉徴収(天引き)して、所得税の納税を代行する。一方の申告分離方式は、投資家
自らが年間を通じた株式売買の損益を差し引きし、確定申告で税務署に納税する。税率は
26%。利益が大きければ源泉方式の方が投資家に有利とされるほか、匿名性も保持され
るため、個人投資家の約7割が源泉方式を選んでいるとされる

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