公団マンション値下げ訴訟に関して

公団マンション値下げ訴訟に関して

住宅・都市整備公団(現・都市基盤整備公団)が売れ残りマンションを値下げ販売した
ため資産価値が下がったと主張して、横浜市都筑区の港北ニュータウンの住民27世帯3
9人が、公団に損害賠償を求めた訴訟で東京地裁の山口博裁判長は2000年8月30
日、住民の請求を棄却する判決を言い渡した。公団の値下げ販売をめぐる初判断で、同種
の訴訟には分が悪くなることが確定的。今回はこの問題を整理してみたい。
以下にまず、8月30日毎日新聞を引用すると、
〃山口裁判長は「住民が主張する『同一団地同一価格体系』の原則は認められない」など
と述べ、値下げ販売は所有権の侵害にはあたらないとの判断を示した。
判決によると、原告住民は1993~96年、約4200万~7200万円で港北ニュ
ータウンのマンションを購入したが、公団は97年以降、売れ残った空室67戸を平均2
0・4%値下げ販売した。
購入の際に、直後5年間またはローン完済まで転売できない「再譲渡制限」がつけられ
ており、住民は「資産価値低下があっても転売できない。集団住宅は同一価格であるべき
だ」と主張し、計3億1500万円の賠償を求めていた。
バブル崩壊以降、先行して安くなった民間マンションとの価格差を縮めようと、公団は
各地で空室の値下げに踏み切った。この結果、今回のケースを含めて首都圏を中心に4件
の集団訴訟が起きていた。〃
一方、2年前の八王子市に東京都住宅供給公社が建てた同様のマンション訴訟では、ノ
ナ由木坂管理組合と都との間で和解が成立している。和解の概略は以下。
〃〃〃〃〃
1.都は申立人との十分な協議を経ずに値下げ募集活動を開始した結果、混乱を招いたこ
とにつき遺憾の意を表明する。都が遺憾の意を表明することにより、法的責任を認めたも
のではないこと、また、申立人の組合員である各区分所有者の都に対する個別の権利行使
を何ら拘束するものではないことを相互に確認する。
2. 申立人は都に対し、本和解契約の成立後、都が前条の空き住戸につき本件募集を行
い、販売行為をするにあたり次のことを確認する。
申立人は都が前条の空き住戸につき本件募集を行い、販売行為をすることに反対をしてき
たが、空き住戸内覧希望者(以下、内覧希望者という。)に対する反対意見書の配布を中
止し、速やかに反対活動のために設置したテント小屋、立て看板および垂れ幕を撤去す
る。
3.都は、申立人が前条・項のテント小屋、立て看板、垂れ幕の全てを撤去完了後、1ヶ
月以内に、紛争解決金として金2,210万円を申立人の指定する方法をもって支払う。
4.和解契約に要する費用として和解成立手数料金790,650円(消費税込み)を申
立人・都双方が折半して負担するものとし、各自金395,325円を第一東京弁護士会
仲裁センターに遅滞なく支払う。
〃〃〃〃〃
都の和解策と国の違いが現れたよい例でもある。和解策にしてもその内容を見るかぎり
では、原告の部分的勝利ということではあるものの、一応の社会的評価を得ている。だ
が、住宅・都市整備公団は国の特殊法人であり、国のレベルでの公共の事業に対しては裁
判をもってして勝てるケースは極めて限られることが想定される。むしろ、全面敗訴を覚
悟した方が良いであろう。国の事業では契約に錯誤があった場合ないしは瑕疵物件であっ
た場合以外はまず勝てない。そういうものである。これは、公共事業、公益事業全般に共
通した現象であり、特に所轄官庁の認可に基づく法人の事業に関して共通して言えること
である。
裁判所への原告の書面準備書を読む限り、原告の主張する論点は、?公団は、利益追求
を目的とするのではなく、国民に対して良好な住宅や宅地を供給することを目的として設
立された、公共性の高い事業であり、?そうした性格上、公団の住宅の価格については原
価に基づいて販売しなくてはならないのに、実際は不当に高い価格で販売した。?さら
に、公団は当初値下げをしないと言っておきながら方針を変更したのは不誠実であり、値
下げで購入した者とそうでない者との間に著しい不公平を生じさせている、の3点であ
る。
原告側は、バブル経済が崩壊した後の1993年8月から96年6月までの間に住都公
団のマンションを正規の価格で購入した。一方公団側は、その後の景気低迷で売れ残りを
処分できなかったため、昨年8月から平均して995万円値下げして販売をした。なかに
は、同じタイプの住戸でありながら、購入した時期が2カ月ずれただけで1000万円も
の差が生じた例もあった。こうした点から、値下げ分との差額や慰謝料など計155億円
あまりを支払うよう原告は求めている。
この問題には、単純に「値下げ自身はいいことではないか」「自分で決めて損をしたか
らといって補償を求めるのはおかしい」といった意見だけでは片づけられない問題があ
る。
原告の主張は、公団の値下げは、バブルが崩壊して首都圏のマンションの価格が下がって
いるときに、公団の物件価格は上昇していることを問題にしている。つまり、「準国家的
機関である公団は消費者が安心して買えるような公正な値段で住宅を売る必要があるので
はないかということを言っているのである。
書面データによると、首都圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)における民間分譲マンショ
ンの平均販売価格は次のとおり下落していた。しかし、住都公団は、分譲マンションにつ
いてはその価格を下げるどころか、平成6ないし7年までは逆に上昇させていた。同一地
域のマンションで比較しても、民間分譲マンションよりも被告分譲マンションの方が割高
という、いわゆる逆転現象も平成4年ころから生じることになった。それでもなおかつ販
売されていたのは、それまでの被告に対する国民の信頼の発露である。国民の信頼とはす
なわち、それまで住都公団は(1)良質の物件を安価に提供してきたこと、(2)同一の
物件では絶対に値下げをしないことにある(制度的に値下げできない事を住都公団は再三
にわたり表明してきている)。
[年]  [平均価格(万円/m2)]
昭和62年  60.7
昭和63年  71.2
平成1年   82.2
平成2年   94.9
平成3年   88.7
平成4年   75.7
平成5年   70.0
平成6年   66.9
平成7年   61.7
裁判には途方もない時間とお金がかかる。特に集団訴訟では、集会を開き議論をし意見
をまとめなくてはならない。とても金銭的な損得計算だけではできない。正義感がなけれ
ば動けないのである。裁判の結果はともかく、第3者がそれに学ぶよい機会であると考え
られる。これも、行革の必要性という原点にたどり着くからである。そして、何よりも具
体的行動を起こしている人達に対して真摯な敬意を表したい。そして、情報公開法の施行
後に、現状では開陳しない公団経営データの実体が国民の目に触れることを期待する。
大きな政府は国民を守ることはしない。公の組織は肥大化し始めると自己増殖を始め
る。原価管理もなければ、競争もなく、いかに税金を食うか、民を欺き、結果的に国民を
謀ることを始める。経済大国になればなるほど、個人のリスクマネジメントが大切となる
のである。お役所的な事業体は余り信用しない方が安全とは、皮肉な話である。

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