最近の倒産傾向に学ぶこと

最近の倒産傾向に学ぶこと

証券業界では株式売買委託手数料の完全自由化から、10月で1年を迎える。格安手数
料を武器にしたインターネットによるオンライン取引によって、価格破壊的に手数料は下
がった。その結果、準大手以下の証券会社は大幅な方針の転換をしたとしても(ネット取
引はシステムに多額の投資が必要で、準大手、中堅以下の証券では今からでは遅く、参入
しようにもできないというのが現状である)、今後は生き残れる数に限りがあるのではな
いかと思われる。ネット取引の開設は業界全体の約2割、57社に広がったが、この中で
生き残れるのは10社以内程度ではないかと思われる。競争の重点は今後、顧客の投資行
動活性化のためのサービス面に移ると見てよい。自由化前に20万に届いてなかったネッ
ト取引口座数は、9月末では130万に迫っており、大きな地殻変動が起きているのであ
る。その結果、大手証券会社からの流出組がネット証券に移動するという現象が起きてい
る。野村を筆頭とする大手の中にも危機感を持っている人達が出てきている。
第3話で紹介した松井証券は8月の月間売買株数が4億5000万株と、1年前のほぼ
10倍となり、東京証券取引所での売買株数順位も前年8月の69位から14位に急浮上
した。「東証売買額の個人取引分で、ネット取引のシェアは1割だが、来年にも5割を超
えるだろう。個人取引ならうちが野村証券を抜く日も遠くない」と松井道夫社長はいう。
彼はある講演会場で、「インターネットというのは、あくまでもツールにすぎません。そ
れはいかにも人間否定のように言われますけど、逆なんです。要するに、言ってみれば、
人間がいろんな手間隙をかけている、たとえば証券のビジネスで言えば、エグゼキューシ
ョン(売買執行)、すなわち投資家と取引所をつなぐ、などという単純な仕事は、わざわ
ざ人間がやる必要はないだろうということです。そういう意味では、人間はもっと人間の
人間たる所以である頭脳というか、感性、美意識、そういったものにむしろ向いて付加価
値を高めた方がよっぽどいいだろうと思うのです。ある意味ではルネッサンスであり、人
間性復活です。私は基本的にそういうふうに思っています。」と述べている。
証券業界の状況をイントロの話題としたが、今回は、スーパーマーケット、専門店の順
で続いてきた価格破壊が全産業を横断した動きとなっているという点で、第3次の価格破
壊展開とも言うべき社会変動について、倒産の状況という面から分析的に見てみたい。

●金融再生法による国民負担が8兆円を超す
新潟中央銀行の分割譲渡先が決まり、2001年3月までの時限立法である金融再生法
の下で破たん処理された長期信用銀行2行と第二地方銀行5行の譲渡先がすべて決定し
た。1997年秋に始まった金融危機への対応はこれで一区切りを迎える。7行の処理に
は8兆数千億円の国民負担がかかる一方、外資系投資会社のグループや国内の異業種組
が、少額の投資で日本の銀行業への本格参入を果たした。
破たん金融機関で生じた損失(債務超過分)は、公的資金と民間金融機関の預金保険料
で穴埋めされる。日本長期信用銀行に約3兆5900億円、日本債券信用銀行に約3兆2
400億円、国民銀行に約1800億円が支払われた。譲渡を待つ残る4行分は2000
年3月末現在で計約1兆4000億円だが、その後も資産劣化が進んでいるとみられるこ
とから、最終的な国民負担額は7行合計で8兆数千億円になる見込みである。このような
巨額な資金を負担するのは、結局のところ国民の税金であり、消費が上がらないのは当た
り前といえる。早い段階で膿を全て出し切って、新しい経済の創生段階への移行が望まれ
ている。経済は予定調和に基づいて、いき着くべき所に落ち着くものと考えるが、倒産状
況の推移をつかまえておくと、示唆に富んだ教示が得られるように思う。

●最近の倒産状況
2000年8月の帝国データバンク企業倒産情報によると、倒産が1704件、8月と
しては戦後最高、負債額1兆3783億6500万円となった。前月比件数で5.4%
増、前年同月比件数で21.5%増、3カ月連続して前月比増加である。
低価格化と市場の縮小に対応できず競争力を失っている多くの企業に、銀行の厳しい選
別の動きが加わっている。金利上昇と金融再編は、特に過剰債務を抱えて売上ダウン・コ
スト削減の悪循環に歯止めが掛からない建設・不動産・流通などの企業を待ったなしの状
況に追い込んでおり、中小の取引先や下請企業はそのしわ寄せを受けている。当面、倒産
は一段と増加する見通しである。また、「民事再生法」申請はブーム化し、8月に74件
発生、4月からの累計333件に達する。おもな最近の主な動きを追ってみると、
8月11日、不動産賃貸、管理の飛栄産業ほかグループ10社(飛島建設(株)の別会
社)は、東京地裁へ特別清算を申請した。負債4500億円。
9月18日、国や青森県などが出資していた第3セクター、むつ小川原開発(株)(資
本金60億円)は、東京地裁へ特別清算を申請した。負債1852億円。第3セクターと
しては過去最大の倒産。なお、第3セクターの倒産としては、苫小牧東部開発(株)(負
債1423億円、北海道、99年9月特別清算)を抜いて過去最大。
9月26日には、不動産賃貸業の東総開発(昨年6月に破たんした東京相和銀行の関連
会社で負債総額は794億円)が東京地裁から破産宣告を受けた。
同じく9月29日、配電盤、分電盤製造東証2部上場の川崎電気株式会社も民事再生手
続き開始を申請(負債253億1000万円、資本金12億1808万6750円)し
た。
このところ倒産状況は緩和していたのではなく、いったん、民事再生法を申請して再建
にめどが立つかに思われがちな企業でも、数ヶ月で再破綻というケースが今後続出してく
ることが予想される。
8月の倒産の特徴は、運輸・通信業、不動産業を除くすべての業種で前年同月比2ケタ
の大幅増加で、業種別の倒産動向は、建設業542件を筆頭に、製造業295件、卸売業
309件、小売業258件、運輸・通信業55件、サービス業171件、不動産業52件
となっている。
主因別動向では、販売不振(1095件)が10カ月連続前年同月比増加であり、放漫
経営(199件)、業界不振(103件)、売掛金回収難(53件)と続く。販売不振は
99年11月(866件、同4.7%増)以降10カ月連続して前年同月に比べ増加であ
る。政府の見解は別として、デフレスパイラルは未だ続いていると見るのが正しい見方で
ある。
資本金別動向では、前年同月比で、5000万円以上の規模ではいずれも減少した一方
で、5000万円未満の規模ではいずれも100件を超す大幅増加となり、次第に中小企
業側にしわ寄せが及んできていることが伺われる。
負債額別動向では、10億円未満の規模はすべて前年同月比増加であり、倒産はすそ野
産業に広がってきている。
形態別動向では、更生法0件(前月1件、前年同月2件)、商法整理0件(同0件、同
2件)、破産282件(同239件、同202件)、特別清算26件(同16件、同14
件)、任意整理1324件(同1272件、同1163件)となった。
また、民事再生法は月中72件(前月88件)発生、すでに倒産して前月までに集計済
みの企業で、同法へ切り換えた2件(同3件)を含めると74件(同91件)となった。
これにより、「民事再生法」の施行された4月からの累計は切り換えを含め333件に達
した。
上場企業の倒産は、8月は発生しなかったものの、今年に入ってからの累計は8件(う
ち東証1部上場企業が6件を占めている)となっている。
中小企業向けの特別保証制度利用後の倒産は8月363件、集計開始の98年10月以
降で最高だった2000年3月(330件)を上回り記録を更新。これにより、「中小企
業金融安定化特別保証制度」が施行された98年10月以降の累計は4559件、負債総
額は1兆4458億1400万円に達した。まさに、大盤振る舞いの税金の無駄使い。
そごうの債権放棄から、ハザマに1050億円、熊谷組に4500億円の債権を放棄
と、債権放棄は流行の感を呈している。だが、債権放棄は一時的な倒産回避策ではあって
も、失われた信頼は回復できない。平成の徳政令適用企業のラベルが付いて回り、業績不
振の上、法的整理に入るものと考えた方が適切な解釈である。いずれにしても、ゼネコン
の法的整理となるところは今年から来年にかけて続出するであろう。それほど建設業界と
いうのは、経営がアバウトで変化に対応できていない業界であるからである。
以上、細々と数字を並べてみたが、要するに第3次価格破壊の社会変動の波をとらえ切
れていない、旧態依然とした業界がこれから危ないということである。よく言っているこ
とだが、土地住宅はまだまだ下がらざるを得ない現状にある。1973,4年代のオイル
ショックと同様に、今度は、マイナスのベクトルでの新価格体系への急速な移行が始まっ
ていると言ってよい。落ちるところまで落とし、破壊できるところまで破壊し、その上で
労働人口の分野別大移動を計り再生をするという処方箋が一番正しいやり方と考えられ
る。背伸びをせず、贅沢をせず、堅実に、しっかり貯蓄に励み、政府のいう消費向上の住
宅減税措置などという目先の政策に踊らされない賢い消費者となることが、今は、一番で
あると言える。必ず、数年後には物価は安い、地価、住宅も安いという理想の社会ができ
あがることを信じて疑わないマインドが大切である。そのためには、消費者が賢くなるこ
となのである。
最後に、参考のため倒産関連の定義をまとめてみた。倒産という一般的表現を漫然と聞
くのではなく、どういう状況なのか正確に理解するために役に立つと思う。

倒産の形態には、会社更生法、商法整理、破産、特別清算、任意整理(私的整理)があ
り、旧和議法に代わって倒産の名前の付かない民事再生法が現在は最近ブーム化をしてい
る。
●倒産の定義
会社の倒産というのは、債務者の決定的な経済的破綻をいう。すなわち、弁済期にある
債務を弁済することができなくなり、経済活動をそのまま続行することが不可能となった
事態である。債務者の振り出した約束手形(小切手)が不渡りになり銀行取引停止処分に
なるというのがその典型である。それ以外でも自ら裁判所に対して破産手続きや会社更生
手続などの申し立てをしたり、債権者に財産状態の悪化を告げて全面的にその処置を委ね
るのも、倒産といってよい。倒産すると、銀行取引停止処分となる。
手形交換所は、手形・小切手などの交換決済に関連して、すべての交換手形が不渡りと
なることなく円滑に決済されるよう、手形・小切手の信用を維持向上させるため、不渡り
にした者に対する一種の制裁として不渡り処分制度を実施している。債務者が振り出した
手形が、期日が来ても決済できず、不渡りになった場合、6カ月以内に2回目の不渡りを
出すと、「銀行取引停止処分」として取引停止報告に掲載される。その後、処分日から起
算して2年間に亘って同一手形交換所に加盟しているすべての金融機関から、当座取引を
開設して手形・小切手を振り出すことも、貸付による借入金もできなくなる。

■会社更生法
窮地にある会社が再建の見込みのある株式会社(限定)について破産を避け、再建を目
指す整理方法である。和議法や商法による会社整理の欠陥を補い、株式会社の事業の維持
更生を目的とする手続きで、?事業の継続に著しい支障をきたすことなく弁済期にある債
務を弁済することができないとき、?会社に破産の原因とする事実がある場合は、資本の
10分の1以上に当たる債権を有する債権者または発行済み株式の10分の1以上の株式
を有する株主も申し立てができる。
更生手続き開始と同時に会社は財産の管理処分の権限を失い、管財人がこれを専有す
る。管財人は更生計画案を作成、裁判所に提出し、関係人集会の賛成と裁判所の認可によ
り成立する。
関係人集会の可決条件は利害関係により異なり、一般更生債権者(無担保)は総債権額
の3分の2以上、更生債権者(有担保)は、更生担保権の期限の猶予だけなら総額の4分
の3以上、減免、その他期限の猶予以外のその権利に影響するときは5分の4以上、清算
を内容とする計画は全員の同意が必要。但し、株主は過半数の同意でよい。

■商法整理
和議手続きの直接目的が破産防止にあることから、その消極性を補い、株式会社が支払
い不能、債務超過に陥るおそれがあり、または陥ったとき、再建を目的に裁判所の監督下
で行われる手続き。
申し立ては取締役、監査役、6カ月前から引き続き発行株式総額の100分の3以上の
株式を有する株主、資本金の10分の1以上に当たる債権を有する債権者。整理開始によ
って、破産、和議、強制執行、保全処分などの手続きは中止される。
会社更生法のように管財人は立てず、経営者が再建に当たる(但し整理委員の協力を受
けたり、管理人に管理権が移ることもある)という特徴をもっている。なお、債権者10
0%の同意が必要である。ただし、平成12年4月より施行の民事再生法によって、この
商法整理も事実上「空文化」となった。

■破産
破産法第132条に基づいて債務者は自ら支払い不能や債務超過を理由に破産の申し立
てを裁判所に行うことができる。裁判所は破産原因があると認めると「破産宣告」を行
い、破産開始決定を出す。破産では裁判所が任命する破産管財人のもとで資産の整理、債
権者への分配が行われ、債権者は原則として個別の権利の行使が禁止される。法的拘束力
のきわめて強い手段である。
なお破産法とは債務者が支払い不能になったとき、破産管財人によって財産を公平に分
配する手続き。申し立ては原則として債権者だが、前述の事後的な整理手続き処理にすぎ
ないので、倒産としては重複するので統計には再度計上しない。

■特別清算
特別清算は、解散後の株式会社につき、清算の遂行の支障または債務超過の疑がある場
合に開始される裁判上の特別の清算手続である。申し立ては債権者、清算人または株主
で、監査役は認められていない。

■任意整理(私的整理)
企業が支払不能または債務超過に陥った場合、法的手続きをとらずに一部大口債権者と
話し合い、債務の棚上げなどにより、内々に整理を行うのを「内整理」という。即ち、法
的整理によらない私的整理である。その実態把握は不確実性が強く、統計上の件数は少な
い。内整理の場合、裁判所を通さず、債務者または債権者から他の債権者を招集し、整理
の中心となる債権者委員を決め、委員会の承認を基に清算か再建かを決定する。
休業、廃業、解散、人員整理、手形ジャンプなどのケースは、企業倒産関連現象として
は取り扱っているが、とくに倒産とはいわず、したがって倒産統計件数からは除外してい
る。

■民事再生法
和議法が、戦前の制定時の骨格を残し、実効性が低く、労働組合関与の規定が全くない
など、重大な問題を持つことから、見直しを求めて平成12年4月より施行されたもので
ある。
(1)債務者に破産の原因となる事実の生ずるおそれがあるとき、または事業の継続に著
しい支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することができないときは、民事再生手
続開始の申し立てをすることができる。
(2)手続が開始されるまでは、強制執行等の中止命令、債権者による法的権利行使を包
括的に禁止する命令等ができる。
(3)手続が開始された場合は、再生債権に基づく強制執行等の法的権利行使は禁止され
る。
これにより、和議法等で救済し得なかった中小企業等の再建と、労働債権の確保が大き
く前進することと期待されている。
和議法との違いは、次の点にある。
1.中小企業等の再建を目的とする簡易再生手続 届出をした債権者の債権総額の5分の3以
上を有する債権者が、債務者の作成した計画案に同意し、かつ債権調査手続を省略するこ
とに同意している場合には、債権調査手続をせずに、その計画案について債権者集会で決
議を行うことができる簡易再生手続が導入された。
また、債権者が届出債権者の全員である場合には、債権調査手続だけでなく、計画案の決
議も省略できる同意再生も導入された。
2.減資手続制度の創設 債務の株式化を円滑に行うことができるようにするための減資手
続を創設。債務超過状態にある株式会社が減資を行うときは、減資すべき金額・減資方法
を定めることとし、会社が発行する株式の総数について定款の変更をするときには、その
変更内容を定めることとした。
民事再生法においては、申立原因の大幅な緩和がなされ、債務超過、支払不能といった
事由が存在しないときでも「債務者が事業の継続に著しい支障を来すことなく弁済中にあ
る債務を弁済することができないとき」にも申立できるようになった。したがって、再建
目的で早目に申立ができる。八方塞がりになる前に、資産劣化や従業員の士気が低下する
前に申立てることが期待されている。しかし、逆に言えば、計画倒産等のモラルハザード
(倫理の欠如)を招く恐れも指摘されている。 また、簡易・迅速処理ということで、申立
時に、再生計画の提示が不要とされるし、議決要件が出席債権者の過半数かつ総債権額の
3/4以上の同意から、出席債権者の過半数かつ総債権額の1/2以上に緩和された。そ
の他にも、同意再生手続等簡易な手続が多く取り入れられている。
このスピードの時代に対応すべく、手続終了までの時間を大幅に短縮することができ、
経営不振に陥った企業を速やかに再建することができる。しかし、逆に言えば、経営悪化
した融資先を抱える金融機関にとっては、簡易迅速に強制的に再建に協力させられること
にもなり、損失が予想より拡大するケースもありうることが指摘されている。
現在、構造不況に陥った旧来型中小企業の再建、多くの関係債権者を抱えるゴルフ場の
再建、ゼネコンの再建に最も発動され易いのではないかといわれている。

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