エレベーターボタンの省エネの話
 
 たまに中規模の事業所の5階建てくらいのビルに行くと、エレベーター内の「CLOSE(閉)」ボタンに「お急ぎでない場合、省エネのためできるだけ、ボタンを押さないでそのままお待ち下さい」と書いてあるのを目にすることがある。
 これというのは、一般的な省エネの意識向上という面では意味があるにはあるが、実際面の省エネ効果は皆無と考えていい。
 たとえば、エレベーターが10kWのモーターで起動されているとしよう。ボタンを押したときの起動時間はわずか1秒以内と考えていいから、1秒間の消費電力は
10kW×1/60分×60秒=1/360kWhの消費電力である。
もちろん、ボタンを押したときの起動電力は、通常の昇降運転時の電力より高いので、最大で5倍の電流を消費するとしよう。とすると、押したときの消費電力増加分は×5倍で1/72kWhとなる。金額にすると×24円で1回押すと33銭ということになる。ちりも積もれば、山となるのたとえ話からいえば意味はあろう。
 だがここまでは、一般常識で理解できる範囲の話。電気料金という面では、省エネ効果は0である。
 ちょっと難しい話かもしれないが、消費電力というのは、正確に言うと
W(消費電力)=√3V(ボルト)×I(アンペア)×cosθ(力率)という式で表される。
モーター起動時のcosθ(力率)は0.1とか0.2となってしまうので、今回の例でいうと、起動時の消費電力というのは実際面で、電圧は一定であるから電流の増加ということになる。この電流(実際は皮相電流というのであるが)が5倍流れたとしても、力率が0.2であれば消費電力は変わらないということになる。
 さて、ではボタンを押すべきか押さざるべきか?それが問題です。
押しても押さなくても省エネ効果がないなら、押さないのか、いや、逆に押した方が早く動くと考える人は押せばいい。押すのが面倒くさく、省エネ効果があると考える人は押さなければよい。
 顧客が払う電気料金の額は別にして、押さないことによって皮相電流増加に歯止めがかかり発電所の必要性を少しでも押さえることができる、という泥縄式の論理を信じる人は押さないのがいい。
 以上が結論です。ただし繰り返しになりますが、押しても押さなくても電気料金は変わりません。

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  以上の結論は同じですが、理論的にもっと詳しく実務的観点から投稿をしてくれた人がありますので、より厳密にという方向けにご紹介しておきます。興味のある方は右の赤ボタンを押して下さい。