電力「競争」時代を読む
2002.4.2

 東京電力が家庭用を含めた電力小売り自由化を受け入れる体勢を固めつつあることで、エネルギー競合する都市ガス小売りともども、全面自由化への歯車がゆっくりと回り始めた。自由化の道筋が決まれば、新規参入や業態を超えた相互参入が進み、業務用、家庭向け料金の値下げとサービス競争の時代が本格的にやってくる。電力業が変わればこの国は変わるという具合に、基幹中枢事業であるだけに大いに期待したいところだ。
 地方の電力会社を回って、現状の断片的印象ではあるが、この東電の動きに対しての他地方電力会社の反応はまだ鈍い。問題は料金のみならず、付随のサービス、電気供給約款の取り扱い等で地方の電力会社が出遅れている感を否めない。長年、節電業界で問題としてきた最大需要電力による基本料金の課金方式について、負荷設備容量の変化があった場合に基本料金を見直すことが出来る制度を新たに導入したのも、まだ東京電力だけだ。
 自由化で先行する海外では、米国ならびに、英国・独などがすでに電力、ガスとも部分ならびに全面自由化をしている。EU(欧州連合)全体としても2005年の電力・ガスの全面自由化の方向にある。自由化は様々なアイディアと川下の論理の受け入れを可能にしてきているといえる。
 電力自由化は一部の間違った表現として、electric democratizationなどという表現をしているサイトを散見することが多いが(自由化を直訳するとそうなるのかもしれないが)、海外の表現は、electric deregulationで、「電力規制の撤廃」という方が正しい。規制の撤廃ということから考えれば、料金は競争原理の導入、電気保安に関しての競争原理の導入、事業者に対する過剰な規制届け出規制の撤廃ということであって、政治的用語である民主化とか自由化という意味とはいささか違うように思う。そういった意味で本当の自由化を志向してもらいたいものだ。
 1999年に家庭用まで自由化した英国では、電力会社のホームページで顧客が住所を入力すると電気代が表示され、気に入れば契約を申し込める。家庭用の電気代は、送電コストなどが部分自由化された1990年から下がっていることもあり、2000年までの10年で22%下がった。日本でも関東近辺ではお客様無料コールセンターに電話をすれば、選択約款に基づく契約種別の変更などは、営業所に出向かなくても電話1本で受け付ける体制を東京電力が部分的にスタートした。順次、供給区域内の全てに広げる方向であると聞いている。電力会社の営業所窓口まで出向かないとなかなか話が進まないということも、だんだん解消されるようになるのではないだろうか。ただ、顧客サービスの一環だけで考えたとしたら本末転倒であり、発電、送電、配電の何らかの形での蓋然性あるコストに裏付けられた透明で説得力のある分離、ならびに送電コストを主管する複数の事業主体への分離を伴わないと、競争市場を構成するための経済合理性に欠けることになる。本来の「電力自由化」とはそういうことだと認識をしている。
 今回、2002年4月1日から東京電力が本格料金改定を行ったが、過去の時系列を追った料金値下げは以下のとおりである。 

        9電力平均(%)  東京電力(%)
1988/1/1  17.83     19.16
1989/4/1   2.96      3.11
1996/1/1   6.29      5.39
1998/2/10  4.67      4.20
2000/10/1  5.42      5.32

 今改訂では、基本料金が据え置きであるので、全体の値下げ幅は約半分程度の7%であるので割り引いて見る必要があるものの、使用量単位料金の引き下げは、相当な努力をしたと評価できるのではないか。具体的には、以下のような単位料金の値下げ率となっている。従来、商店、業務用の工場用用途とと比べた場合の「料金格差」はほぼ解消されたといってもいいレベルということができる。

業務用 17.6%
高圧A  3.5%
高圧B  5.0%
低圧   6.2%
電灯C  6.0%
低圧高負荷新設 19.1% (低圧・電灯C契約比)
業務用WE2  9.2%
業務用WE  19.7%
業務用2   19.5%
季節別時間帯別業務用  20.8%
季節別時間帯別業務用2 23.8%
高圧A WE2  2.4%
高圧A WE   2.3%
高圧A 2    3.7%
季節別時間帯別高圧A  4.6%
季節別時間帯別高圧A2 4.9%
高圧B WE2  4.4%
高圧B WE   4.0%
高圧B 2    5.2%
季節別時間帯別高圧B  6.4%
季節別時間帯別高圧B2 7.1%

 関電の藤洋作社長は「料金改定については白紙だ」と言い続けてきたが、「実施は秋以降、4.2%前後今年中には下げたい」としている。九州電力の鎌田迪貞社長も2001年末に「今後五年間で10%程度値下げしたい」と明言している。さらに東北電力が7月に5.7%、中部電力が9月に5−6%と表明している。
 東電が7%値下げすると年間売上高が約3500億円減る。全国に波及した場合1兆円の値下げ規模であり、産業連関表上、これはマーケットに2から3兆円の新たな需要を生み出す。南社長はこれからはコスト削減で原資を作って値下げするのではなく、下げ幅にあわせて何が何でもコストを切りつめると断言している。社内の余剰人員もどんどん減るであろう。電力自由化で新規参入業者などとの競争が始まり、値下げしなければ客を取られてしまうからだ。
 3月7日朝日の夕刊で報じられた「小売り全面自由化へ 東電の容認で」の記事について、翌日、南社長は内容を否定するコメントを発表している。これは電力小売り自由化の今後について、国の電気事業分科会においてまだ論点整理すら終わっていない段階であると述べたうえで、全面自由化はもとより自由化の範囲等について、電力業界内あるいは東京電力社内で意向を固めたということは全くないという表向きの発言である。正式に決まってはいないわけであるから、当然の反応ではあろうが、腹は固まっているということで読めばよい。日本企業の置かれている世界での位置づけからいっても、経済競争力の強化という点で今後は人肌もふた肌も脱いで文字通り脱皮することになるものと読んでいる。
 政治は遅れをとっているものの、経済界では高人件費、高家賃、高物価を是正する方向にすべての企業の歯車が回り、構造改革へと突き進んでいるのが現代であるからだ。