小売りより高い卸料金でいかが?(2000年7月26日朝日新聞)
東電、新規参入組に提示
 
通産ビル 東ガスなど入札に壁
 電力の小売り自由化に伴う新規参入者が、販売電力の一部を東京電力からの卸供給に頼る常時バックアップ(補給)を希望したところ、東電は小売り用の標準料金より日中のピーク時に五割近く高くなる料金を提示していることが二十五日、わかった。これで、常時補給を見込んで東京・霞が関にある通産省ビルの電力入札に参加を予定していた東京ガスや伊藤忠商事などは、競争力のある料金での参加が難しくなってきた。東電は電気事業者に売る場合と需要家向けとは違うと説明するが、新規参入の出ばなをくじく形の料金設定は論議を呼びそうだ。
 八月十日に予定されている通産省ビル(電力使用規模四千四百`ワット)の入札を控え、東京ガスは自社の幕張ビル(千葉市)にある自家発電設備から千`ワットを調達し、残りを東電からの卸供給に頼る方向で参加を検討してきた。 これに対し東電は、常時補給用の卸料金として、夏の日中に高く夜間に割安となる季節別時間帯別料金だけを適用することを決め、回答した。ピーク時は一`ワット時あたり二十二円前後と、業務用ビル向け標準料金(約十五円)より大幅に高い。通産ビルは日中の電力消費が多く、年間を通じると標準料金で買う場合より約二割高くなる計算だ。
 伊藤忠商事や大手メーカーも同様の返答を受けた。 東電は、新規参入者が変動の少ない「ベース」部分の電力供給を計画しているため「今後、変動の多い部分の補給ばかりを任されると、設備稼働率が悪化して他の顧客にもコストのしわ寄せがいく」と理由を説明している。結果的に、新規参入者は、自社で調達した電気で全量の供給をまかなうか、東電からの補給を「ベース」に回してピーク部分を自社調達することを迫られる。
 東電は、電力の「小売り」の際には、顧客に対して標準料金や時間帯別など複数のメニューを提示しており、ビルの所有者が自家発電でベース電源をまかない、残りの変動部分を東京電力から買う場合も複数の料金を設定している。今回の決定はライバルとなる電気事業者に「卸売り」する場合だけ、割高の単一料金を設定したことになる。
 電力自由化にあたって通産省と公正取引委員会が定めた指針によると、常時補給の料金が標準メニューに比べて「不当に高い」場合、独占禁止法に触れるおそれがある。東電は「季節別時間帯別こそ適正なコストを反映している」(幹部)として、独禁法違反ではない、との見解だ。
 この朝日新聞の記事をそのまま読む限り、東電のいう「季節別時間帯別こそ適正なコストを反映している」という論旨は論理性を欠いている。また例によって、企業の論理かという気がするが、一応、非論理的であるというコメントをつけさせていただきました。
@東京ガスや伊藤忠商事などは、常時バックアップ(補給)を希望したのであるが、その条件として季節別時間帯別卸料金をのみ認めるということであれば、需要家側は選択余地のない料金を押しつけられることになる。そもそも、季節別時間帯別料金という制度は選択約款の考え方であり、この東電の考え方を認めると約款の選択制に抵触することとなる。つまりは、独禁法違反である。
A自家発補給電力という制度が現状でも存在するが、今回の話は本質的にそれと運用上は同じ話であり、その場合、季節別時間帯別料金が適用されているわけではなく、小売りで10%−20%の割増しであり、今回のように卸売部分が50%もしかも小売りよりも高いというのは行き過ぎと思う。
B変動の多い部分の補給ばかりを任されると、設備稼働率が悪化して他の顧客にもコストのしわ寄せがいくとの理由であるが、東京電力全体の需要がアップダウンするように聞こえるが、実際、個体需要のパターンは地域によって違うのであるから、尖頭ピークがずれることによって、むしろ「ベース」化するという考えもあるのではないか。
C電力自由化の一環として、卸供給事業をとらえた場合、むしろ東京電力はこれを支援するという立場に立つのが大人の論理ではないのかどうか?
Dどうしても、他者の論理はいやだという考えであるならば、発送電分離論もまた台頭してくることになると思うが。
E東京電力が卸供給の唯一の供給元であるという事実一つをみても、「季節別時間帯別」の考え方1本で行くのは無理がある。
F将来、アメリカや欧州市場のようにプール市場が育成されたときに、「季節別時間帯別こそ適正なコストを反映している」として、運用するのは何ら独禁法違反ではない。