静 岡 新 聞(平成11年 1月 9日)
                        
変圧器訴訟で購入男性
「信販会社は違反認識」
静岡地裁初弁論
支払い義務ないと主張
 
                          
 電気代が安くなるなどと言われて購入した小型変圧器をめぐり、浜松市上島町、菓子店経営、浜口一生さん(53)が、信販会社、三洋電機クレジット(大阪市)に代金の支払を求められた控訴審の第一回口頭弁論が8日、静岡地裁(曽我大三郎裁判長)で開かれた。 一審の浜松簡裁で敗訴した浜口さんは、平成3年11月付けの電力会社の内部文書などを証拠として提出し「三洋電機クレジットは違反を知りながら契約した」などとして、支払義務はないと主張。 三洋電機クレジットはあらためて全面的に争う姿勢を示した。   
  訴えなどによると、浜口さんは平成6年5月、電気代が安くすむと言われ小型変圧器を分割払いで購入し、立替払い契約を三洋電機クレジットと結んだ。 その後、電力会社から小型変圧器の使用が電力供給約款に違反すると指摘を受け、浜口さんは小型変圧器を撤去。 浜口さんは販売会社と三洋電機クレジットに抗議し、分割代金支払いを停止したが、三洋電機クレジットは残金の支払いを求めて浜松簡裁に訴えを起こした。
浜松簡裁は「売買契約をし、信販会社と立替払い契約を結んだ当時は、違反が明らかだったとは必ずしもいえない」などとして、三洋電機クレジットの主張を認め、昨年9月、浜口さんに代金の支払を命じる判決を言い渡した。 これを不服として浜口さんは昨年12月、靜岡地裁へ控訴した。  業務用のエアコンなどに使う二百ボルトの「低圧電力」から、小型変圧器を介して百ボルトの家電や自動販売機などに電力を使うと、「低圧電力」の方が家電用の「従量電灯」に比べて使用料が安いため電気代が安く済むが、各電力会社は約款で契約者には使用を禁じている。 中部電力静岡支店によると、同店管内で小型変圧器の使用が発見されたのは昨年12月末までで、約六百三十件。 東京電力沼津支店によると、同店管内では昨年11月末までに百五十九件が見つかった。 小型変圧器自体の製造・販売自体は違法ではない。
 以上の記事に対して、純粋に手続き的な意味での法律論からいえば、三洋電機クレジットに落ち度はないというふうに考えるのが一般論である。しかし、それでは善意の浜口さんが丸損の話であるし、三洋電機クレジットに全く落ち度が無いというのも変な話である。ところで、ここでいうところの販売会社とは誰かというと、商法上は三洋電機クレジットにその小型変圧器を販売した会社であり、かつ、浜口さんに対してはリースで三洋電機クレジットから借用するするように斡旋ないしは勧誘した会社ということになる。 
 以上のようなケースの場合、法律は、どのように決着をつけるのか。非常に難しい問題である。リース契約は公序良俗に反した契約でない限り、契約の解除は不可能であり、契約を解除できる唯一の方法は一括残債弁済という方法しかなく、それでは、浜口さんの納得いく解決にはならず、行政がそれを強いたとすると、善意の国民に対して弓を引くことになり、やりきれなさだけが残ることになる。
 そこで、記事の最後にかかれている「小型変圧器自体の製造・販売自体は違法ではない。」という文言の意味を問題にしなくてはならない。つまり、違法でないものをリースで購入した浜口さんが、なぜ、電力会社から小型変圧器の使用が電力供給約款に違反すると指摘を受け、小型変圧器を撤去したのかというと、それにはわけがある。電力会社から外さないと電気の送電を停止すると伝家の宝刀を抜かれたからである。電力会社は公平の原則を楯に、電力供給約款を力ずくでも守らせようとするからである。
 では、なぜ浜口さんは電力供給約款に違反すると指摘を受けたのか。それは、その機器を使っていることを電力会社に見せたからである。見せたという点は、浜口さんの唯一の落ち度である。一般的な傾向であるが、電力会社が屋内の使用機器の調査をさせてくれというと、いかにも簡単にOKを出す傾向が日本人の考えの中にはある。その結果、とんでもないことになるのである。安易に事業所、自宅内に電力会社の調査マンを入れないことである。お断りしていれば、このような法廷闘争は起こらなかった筈である。
 視点を変えて、業務用のエアコンなどに使う二百ボルトの「低圧電力」から、小型変圧器を介して百ボルトの家電や自動販売機などに電力を使うことをなぜ、電力会社は禁じるというエゴの固まりのような約款をいまだに保持し続けることができるのであろうか。それは、独占事業であることからくる身勝手な理屈と、独占事業の伝家の宝刀、送電停止権限があるからである。ただし、事実の確認ができなければ、伝家の宝刀は抜けない。そういう意味で、繰り返しになるが、需要家の伝家の宝刀は、屋内設備を見せないという一点に尽きるのである。
 屋内設備を見せないということは電気事業法第57条を持ち出すまでもなく、国民一人一人に与えられた権利である。ちなみに、この小型変圧器を、屋内設備を見せないで使用していることろは新聞の報じるところを総合すると全国で30万台以上はあるということである。
  開明思想の進んだ欧米では、需要者の購入した財である電気の使用制限をも独占事業体の供給者がするという(社会主義国家ならばわかるが、日本は自由主義国家である)、前代未聞の制度が維持されているということに脅威の念を持つ。しかも、独占禁止法が明確に禁止する制限的経済行為でありながら、超一流の企業であるはずの電力会社が率先して近代法を破り続けているという、これもまた恐ろしい現実でもある。およそ競争社会の存在しない事業に対して、かくも、従順で監視力のない国民、国民を愚弄するに等しい官僚組織の跋扈する国家も珍しい。知恵あるものは異論を唱え制度の無視を、知恵無きものは吸い取られないように自己防衛を、日本の真の将来を考えるものは内部の自己改革のために自己否定の猛省を促したい。したがって、新聞等を含めた公共機関が、この電力会社の公序良俗に反するエゴ規定を糾弾せずに提灯記事を書き続けるのは、日本人の民主主義の不在意識と同義であり、このようなことを戦後50年も続けている国は必ず滅びる。もう滅びているかも。めざめよ!カーッ!

備考:その後、平成17年現在、電力各社の内半数強にあたるが、選択約款で電灯と動力の価格を同じにした低圧高負荷料金という選択料金を導入してきており、かなりこの問題は、解決されている。