バイオマス発電、いつか来た道?
価格下げ前、駆け込み申請 電気代2兆円、家計に上乗せも 2017/7/31付 情報元 日本経済新聞 朝刊
太陽光発電に続く「第2の再生可能エネルギーバブル」が発生しつつある。輸入した木質チップなどを燃やして発電するバイオマス発電に事業者が殺到。年に2兆円が電気代に上乗せされるかもしれないうえに、永続的な再生エネルギーの普及につながるかも不透明だ。太陽光発電で“いつか来た道”に迷い込んでしまうのか。(川手伊織)
再生エネでは発電した電気を電力会社が一定期間、固定の価格で買い取る制度がある。バイオマスの買い取り期間は原則として20年。今は1キロワット時あたり24円で買い取ってくれる。
例えば工場にある石炭を使う自家発電設備に木質チップを混ぜると、電力が買い取り対象になる。初期投資がないため、事業者にとって24円は魅力ある水準とされる。
しかし、間伐材以外の木質チップを燃やす2万キロワット以上の大規模発電の買い取り価格は10月から1キロワット時あたり21円に下がる。同24円の適用を求め3月までに新規の申請が相次いだのだ。「太陽光発電の時と同じだ」。政府関係者は3月を振り返ってため息をつく。
太陽光魅力薄れ
買い取り価格の引き下げ前に事業者が殺到して計画が膨張する。この構図は太陽光発電をほうふつとさせる。
2012年に政府が買い取り制度を導入した当初、大規模太陽光発電の買い取り価格は同40円と高く、関心を集めた。その後徐々に下げられ、太陽光発電の価格は5年で半値になった。価格下落の前に早めに枠を確保しようと駆け込みが相次ぎ、再生エネで太陽光ばかりが膨張。高額で電気を買い取ってもらえる権利を持ちつつ事業に乗り出さない事業者も増え、4月に合計2800万キロワットの発電計画が失効した。
バイオマスの発電量は2月までの稼働・認定分と合わせ、認定済みの計画がすべて稼働すれば1500万キロワットにのぼる。政府が30年時点に想定する量の2倍以上だ。認定したが未稼働の分の買い取り価格は20年間で計38兆円。年間では2兆円が電気代に上乗せされる。
総務省によると6月の2人以上世帯の電気代は8233円と前年より3.3%上がった。17年度の再生エネの賦課金は月々の電力使用量が260キロワット時の標準家庭で月686円。認可されたバイオマスがすべて稼働すれば約440円上乗せされる。東京電力管内では電気代の15%前後になる。
燃料は輸入頼み
政府は水力や風力など様々な再生エネの普及を求めているが、事業者は買い取り価格の多寡によって特定の発電方法に集中してしまう。初期投資の負担を抑え、事業を早く黒字にできるよう促す事実上の補助金が、裏目に出ている面もある。
そもそもバイオマスは優良な再生エネかという指摘もある。駆け込みで申請した1100万キロワットのほとんどが燃料を輸入材に頼っているためだ。
パームヤシ殻など安価な原料を使っても、バイオマスは加工・運搬を含めた燃料費が発電コストの7割を占める。資源エネルギー庁の研究会は「バイオマスのコスト削減の方法論の精査が必要」と指摘する。
大手電力会社は既存の石炭火力発電所で、石炭に木質チップをまぜて燃やすバイオマス発電を計画している。だが「買い取り制度が終わり、燃料を石炭に戻したら再生エネの普及につながらない」(自然エネルギー財団の大林ミカ事業局長)との指摘もある。