国のバランスシートとPL(損益計算)

国のバランスシートとPL(損益計算)

平成12年度予算案の編成作業が本格化していた昨年12月、経済開発協力機構(OEC
D)の一つのリポートが大蔵省などの関係者に衝撃を与えた。その内容は、「日本の201
0年(平成22年)の財政赤字は対GDP(国内総生産)比で8.75%に達する」、「社会
保障関係費の削減などの財政改革で1.25%分しか赤字解消ができないと仮定すると、
必要となる増税などの追加的構造改革は7.5%分となる」というもの。
つまり、GDP7.5%分とは、37兆円もの額。国の予算が85兆円、その内、税収
が48兆円、公社債の借金が33兆円という規模の現状を考えたとき、国民がおとなしく
無策であれば、大変なことになるのは目に見えている。下表は簡単な予算一覧である。ボ
ヤボヤしていると、官僚国家に全てを吸い尽くされてしまうことになる。

平成12年度 一般会計歳入予算の内訳 (単位:億円、%)
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11年予算額   12年予算額     伸額     伸率
租税及印紙収入  471,190  486,590  15,400  3.3
その他収入     36,911   37,181     269  0.7
公 債 金    310,500  326,100  15,600  5.0
合    計   818,601  849,871  31,269  3.8

宮沢大蔵大臣を頭に戴く大蔵省幹部は「10年後の試算なんて非現実的」というが、無
責任な官僚に全てを任せておられる時代ではないことだけは確か。
1998年、米国経済は予定を上回る早さで回復、財政赤字は解消、黒字に転換した。
景気拡大で税収が大幅に伸びたためだ。冷戦終結に伴う国防費の減少も追い風になった。
このため、米国では、同じく10年後に、財政黒字が2兆9千億ドルに達する、とクリン
トン政権は発表している。連邦政府の貸借対照表を発表している米国は、単年度では財政
黒字であるが、昨年九月末時点で約6兆ドル(600兆円強)の債務超過になっている。
しかし、年間に1兆ドルからの黒字累積によって累積赤字を解消する方向である。この動
きに日本国民は冷静な目を向け、政治改革と選挙を通じて行政のあり様を変える責任を持
っていると言える。

★B・S作り遊びで問題は解決しない
このような状況下、民間の研究機関が、相次いで国の貸借対照表(バランスシート)を
試作している。現金の出入りだけを記載した現在の予算書や決算書では、財政状況を的確
に説明できない、との批判が込められているからである。
地方では、すでに三重県などが貸借対照表を作成し、公表している。
三重県では平成4年度から既にバランスシートと損益計算書を作成しており、一定の成果
を上げている。
貸借対照表は、資産と債務を項目別に整理して示した会計帳簿だ。民間企業では損益計
算書とともに経営の根幹をなす帳簿だが、官庁の一般会計の予算書は、使い切りを目的に
作られており、費用削減のインセンティブは全く働かない。会計基準の改正で急速に透明
度を高めている企業会計に比べ、政府や地方自治体などの官庁会計は、“大福帳”にとど
まり、行財政改革とは名ばかりの状況である。極度に肥大化し整然とした公的組織は、一
見、効率的であるように思えがちであるが、夜の霞ヶ関官庁街をタクシーで回ってみれ
ば、ネオンならぬ蛍光灯が夜の10時でも毎日、明々と灯っている。こういうのを単なる
ワークの為の無駄仕事という。行政の非効率とサービスの劣化の原点が窺われる。仕事の
効率は無駄を省くことから始まり、簡素化をもって帰結することが解らないと、延々と仕
事のための仕事をすることになる。
PHP総合研究所が試作した96年度の貸借対照表によると、国と地方自治体、社会保
障基金を合わせた「一般政府」の資産総額は、現金、預金などの金融資産と、土地、道路
などの固定資産の合計で916兆円だった。これに対し、債務の総額は国債、地方債に公
務員の退職金、共済年金の積み立て不足などを合わせ、704兆円に上った。資産から債
務を引くと200兆円強のプラスだが、資産には道路の底地など売却不能なものがあり、
それを差し引くと実質368兆円の債務超過になるとしている。
一方、「構想日本」が試作した同年度の貸借対照表では資産総額で568兆円、債務総
額は1471兆円で、債務超過額は903兆円だ。厚生年金の積み立て不足を計上したた
め、PHPより債務が膨らんだ。
比較的以前からバランスシートを作成している三重県の県レベルの例では、資産総額で
38,826億円、(内、流動資産2,197億円、固定資産(社会資本及び土地)3
5,034億円)、債務総額は8,177億円のため、債務超過ではない。ただし、債務
総額の殆どが1年以内の短期負債であることから判断すると、債務を贖える資産額は流動
資産の2,197億円とみれば5,980億円の債務超過と見ることもできる。その証拠
として、過去5年間に流動資産の劣化が進み(2,524億円→2,197億円)、逆に
負債の面では流動負債の増加(1,229億円→1,572億円)、固定負債の増加
(3,940億円→6,605億円)という事態が起きているのだ。
バランスシートだけを見ていると結果としての財務状況はよくわかるが、万全ではな
い。損益計算書の流れを同様にチェックして、平行チェックする必要がある。フローとし
ての三重県会計収支を見てみると、新しいことが解る。人件費が5年間に2,094億円
から2,303億円と増加しているということである。全体支出が4,227億円の中の
半分以上を占めている人件費に手をつけないでよい筈はないのである。三重県という自治
体は全国でも、情報公開が進み、革新的な取り組みで評価をされている県であるが、その
県でさえ大きな問題を抱えている。フローとしての枠組みを再評価して、対策を打つこと
は民間においては当たり前のこと。付加価値を生まない仕事をしているセクターが、トヨ
タ自動車と同様に人員の削減はやりませんでは済まないのである。済むとしたら平和ぼけ
だ。つまり国全体が、需給ギャップという大きな爆弾を抱えた状態ということを改めて認
識する必要がある。少子化で、高齢化が同時に進行し、労働人口が減少化しトータルとし
て、労働人口の需給ギャップは小さくなるように思いがちであるが、IT革命で、ものを
作らない人口、販売をしない人口が増大化するとしたら、国のGDPは減少化の一途をた
どらざるを得ない。そのような過程の中で、いまだにGDPのプラス成長が、景気が、と
いい続けることに無理があるのではないだろうか。何をすべき、何を為さざるべきかを判
断して、国の行く先を定めるという手続きが必要なのである。やらなければいけないこと
ははっきりしている筈だ。財政支出のカット、その中に人員のカットも当然含む。ニュー
ジーランド並の有無を言わせないカット方式を導入しなければならない所に来ているので
ある。そのための第一歩は、国民が現在の体制にはっきりとノーを意思表示すること。そ
れが第一歩だ。
過去、国、自治体は税収の足らない部分を公社債の発行という手段で切り抜けてきた。
その悪知恵を使う官僚組織が全国にはびこってしまったということだ。企業は銀行が融資
を止めた段階で倒産し、更におかしくなる前にリセットが利くが、国は倒産をしないが為
にリセットが利きにくいと言える。リセットをかけるのは、あなた自身であることを知ら
ねばならない。主要先進国の財政状況をみると、いずれも財政赤字が着実に減少してい
る。唯一日本だけが、急激な伸びを示しているのである。

★10/4の日経、読売の報道
各紙によると、国の債務超過は最大780兆円、年金給付扱いで差、将来世代のツケに
とある。それによると、大蔵省が近く発表する国の貸借対照表(バランスシート)の原案
が明らかになった。国が抱えている資産と負債を98年度末時点で試算したもので、国全
体では負債額が資産額を上回る債務超過の状態にあると分析。国が支払いを約束している
公的年金の給付額をどの程度の負債とみるかによって、債務超過額が約130兆円、27
0兆円、780兆円になるという3種類の試算を提示している。一般企業の債務超過と単
純に比較することはできず、それをすべて国民の負担で穴埋めする必要があるわけでもな
いが、将来の世代に大きなツケが残るのは避けられない情勢だ。大蔵省が国の貸借対照表
を作るのは初めて。国の会計では各年度の決算や年度末の国債発行残高などを発表してい
るが、「年度をまたぐ会計操作などが見えにくい。貸借対照表を開示すべきだ」との批判
が強まり、大蔵省の私的勉強会で公表の準備を進めてきた。
今回の貸借対照表は98年度の決算に基づき、国の一般会計と38の特別会計を一体化
して試算した。地方自治体や特殊法人の資産・負債は含まない。
同省の原案では、国の資産総額は660兆円。道路や橋などの固定資産は取得原価に物
価上昇を反映させ一定の減価償却をした評価額を計上。これに時価換算した日本電信電話
(NTT)株をはじめとする有価証券や現預金、特殊法人への貸付金などを加算した。
これに対し、負債は財政投融資の原資となる郵便貯金や国債発行残高から政府保有分を
差し引いた民間保有分などを計上した。
公的年金については?年金給付の原資として加入者が払った積立金だけを負債に反映さ
せる?年金給付の一部を賄う国庫負担も負債に入れる?国が支払いを約束した年金給付額
全額を負担に計上する──という三案を提示。それぞれの負債総額をはじいた結果、?が
最大の1440兆円となり、これから資産総額を差し引いた債務超過額は780兆円とな
った。
国の場合、国債を発行して減税するなど試算の裏づけがない負債を抱えるケースが多
く、大蔵省は「企業の債務超過とは違う。国の財政破たんや資金繰り難に直結するもので
はない」と話している。
この時期のリーク記事は、大蔵省が国の貸借対照表を小出しに出すことによって、財政
再建へ思惑を絡めたと観測するのが妥当と思われる。同省自身が「あくまで試作品に過ぎ
ない」と位置づける貸借対照表をあえて公表した背景には、将来の財政再建論議の材料に
したいとの思惑がありありと見て取れる。
宮沢蔵相は最近、財政再建に対する基本姿勢として「21世紀に向けて地方や税制など
多方面からの議論が必要になっている」と繰り返すようになった。また、武藤次官は、
「そう遠くない時期に、いずれ話ができるだろう。ただ、今後、毎年作成するかどうか
は、現時点では決めていない」と語った。ということからも、この貸借対照表の話は極め
てきな臭いのである。

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