「太陽のエネルギー源を地上で再現」「夢のエネルギー」と長年言われ続けながら、忘れ去られた感もある核融合発電。核融合科学研究所(岐阜県土岐市)は2013年12月、核融合に必要な高温プラズマを48分間維持することに成功するなど、核融合発電実現まで「7、8合目まで来た」という。巨大実験装置にカメラが入った。
■銀色にうねる真空トンネル
実験棟に入ると、銀色に輝く複雑そうな巨大装置が所狭しと並んでいた。「大型ヘリカル装置」という実験設備だ。プラズマを発生させる真空容器はドーナツ状で、直径8メートル(装置外径は13.5メートル)。そこから放射状に飛び出す突起のように、加熱装置、冷却装置など各種装置が取り付けられている。現在、11月の実験再開に向けてメンテナンス中だ。その内部は、くねる金属製パイプがいぶし銀のように光るトンネルだった。さながらSFに登場する近未来都市のような印象だ。
実験時には超電導磁石を使うためマイナス270度まで冷やされ、内部は真空にされる。この真空トンネル内に宙に浮かすようにプラズマを発生させる。不純物のない状態を保つためメンテナンス作業も半導体工場のようなクリーンルーム用作業服を着用する。
この装置を使って核融合に必要な超高温プラズマの磁場閉じ込めの研究を続けているのが、大学共同利用機関法人「核融合科学研究所」。1998年に実験を開始した。真空トンネルは、うねる2匹の大蛇がドーナツをらせん状に取り巻くような形をしている。ドーナツに多数のリングを取り付けるように、プラズマを閉じ込める磁石を取り付けるトカマク方式が世界の主流だが、日本独自のヘリカル(らせん)方式で挑んでいるため独特の形状をしている。
■太陽より熱い1億2000万度を目指して
核融合とは、水素など軽い原子核を融合して重い原子核を作り出す原子核反応。その際、質量がわずかに減少し大量のエネルギーを放出する。太陽のエネルギー源でもあり、これを地上で再現できれば無限のエネルギーが取り出せるとして各国で研究が進められてきたが、長年の研究にもかかわらず実現には至っておらず、最近の新エネルギーの議論でも取り上げられることが少なくなっていた。
核融合を地上で再現、持続させるには、超高温・高密度などの3条件を同時達成する必要がある。核融合点火に必要な温度は1億2000万度。太陽の中心1500万度よりもはるかに高温だ。核融合科学研究所では昨年、9400万度を達成、またプラズマを持続させた時間も2300万度のプラズマだが48分間維持することに成功、目標に一歩近づいた。
核融合研究所は現在、水素を使って研究しているが、2016年から重水素を使った実験を始める計画。重水素を使うと水素よりも1.4倍の高温を出せることが海外の研究でわかっており、2、3年で目標の1億2000万度の達成を目指す。
■「核融合発電、今後30年で」
一方、すでにトカマク方式では核融合の3条件を達成している。このため、日米欧などが2020年の稼働を目指してフランス南部で建設中の「国際熱核融合実験炉(ITER)」ではトカマク方式を採用している。ただ、トカマク方式にも弱点がある。プラズマ内に大電流を流し続けなければならず、発電所に求められる「連続運転」が現状では難しい。一方、ヘリカル方式は3条件はまだ達成できていないが、連続運転に向いており、両方式の成果を合わせていくことで、核融合発電所実現の道筋が描けると同研究所はみている。
「逃げ水」「30年たったら、また30年」。核融合発電がなかなか実現しないことから、よく言われたと話すのは、同研究所大型ヘリカル装置計画実験統括主幹の竹入康彦氏。核融合発電実現の見通しは昔も今も「今後30年」。ただ、竹入氏は「以前言っていた30年と、現在言っている30年では意味合いが大きく異なる」と指摘する。「ITER(イーター)や核融合科学研究所での研究に10年、発電所の設計に10年、建設に10年として、30年かかる。工学的にどう発電所をつくり実現させるかという課題に取り組んでいく『現実的な30年』になる」という。
核融合は核分裂を利用した原子力発電よりも安全とされる。竹入氏も「核融合発電にリスクがないとは言わないが、管理可能なリスクだ」と違いを強調する。ただ2011年3月の東日本大震災では福島第1原子力発電所が事故を起こし、国民の不信感は強い。また、発電所実現には巨額の費用もかかる。「地上の太陽」実現には、国民の理解という条件のクリアも必要になってきそうだ。
(映像報道部 菊次正明)
▼プラズマ 物質の第4の状態。物質は温度が上がるにつれ、固体→液体→気体と変化するが、さらに高温になると、原子核と電子がばらばらになったプラズマというガス状態になる。
▼核融合発電 核融合で発生させたエネルギーを熱エネルギーに変換して蒸気タービンを回して発電する。燃料は重水素とリチウムで、海水から取り出せる。二酸化炭素(CO2)を排出しない、原油など海外からの輸入に頼らず日本でエネルギー自給が可能になるなどのメリットがある。わずかな海水で日本人が年間に使用する電気量をまかなえるとされる。
▼核融合と放射能 核分裂を利用する原子力発電では燃料自体が放射性物質であるのに対し、プラズマは条件が絶たれると消えてしまうため核分裂の連鎖反応のような暴走は起きない。途中、放射性物質である三重水素が発生するが燃料として使う。中性子を浴びた炉壁などが放射線を発生するようになる放射化問題があるが、放射化した材料も数十年で元の状態に戻るため、発電所の更新時などに再利用することが考えられているという。