大和銀行株主代表訴訟

大和銀行株主代表訴訟

★5年前の出来事から
新聞各紙の2000年9月20日付報道によると、株主代表訴訟で、大和銀行旧経営陣
に830億円賠償命令(大阪地裁)の記事が目を引いた。記憶に新しい事件に対する初の
判決であるが、度肝を抜かれる罰金額ということで話題をまいている。
事件の背景をまず振り返ってみると、同支店の元嘱託行員が米国内で84年から11年
間、米国債などの無断売買を約3万回も繰り返し(デリバティブ取引と呼ばれている金融
先物取引で高度の経済学を駆使した金融派生商品)、約11億ドル(約1100億円)の
損失を出した。元嘱託行員は帳簿類を偽造して損失を隠していたが、95年7月に頭取に
手紙で告白した。銀行側は、米国の連邦銀行法などに反して、米金融当局に2カ月間、事
実を報告せず、同年9月、米司法当局に訴追された。同行は96年2月、約3億4000
万ドル(約350億円)の罰金を支払ったというものである。
訴訟では、兵庫県と東京都の個人株主2人と、東京都の法人株主1社が、「適切な管
理、監督の措置をとらなかったため、銀行が損害をこうむった」として、85年~95年
に同行の取締役と監査役だった49人を相手取り、計14億5000万ドル(約1450
億円)を同行に支払うよう求めていた。元嘱託行員の「11年にもわたる不正取引を発見
できず、損失を拡大させたのは、取締役と監査役の重大な職務怠慢」であり、「事実の把
握後、米金融当局に速やかに報告しなかったために銀行が訴追され、多額の罰金を支払う
結果を招いた」と主張していた。
一方、被告側は「元嘱託行員による個人的な犯罪で、銀行は被害者。検査体制に不備は
なかった。米金融当局に報告が遅れたのは、実態解明と原因究明を優先し、加えて、不確
実な内容を報告すべきでないとする大蔵省の意向だった」と反論していた。また、被告側
は「不正行為を防止するために内部統制システムを十分整備してきた。元行員の異常に巧
妙な隠ぺい工作を発見するようなシステムを構築することは、法が要求する取締役の注意
義務の範囲を超える」と主張していた。

★株主代表訴訟制度とは
株主の代表訴訟は1950年、株主が経営を直接チェックできる制度として生まれた。
しかし、総会屋が企業を揺さぶる材料に使ったり、同族企業の内紛をめぐって裁判が起こ
されたりする程度だった。その後、日米構造問題協議で経営に対する株主のチェック機能
の強化などが議論に上り、93年、一律8200円の手数料(印紙代)で裁判を起こせる
ように商法が改正された。これをきっかけに、株主代表訴訟が急増した。
日本の証券・金融界と「闇(やみ)勢力」との不透明な関係が浮き彫りになった野村証
券の利益供与事件では、酒巻英雄元社長ら6人が野村証券に計3億8000万円を支払う
という内容で和解が成立したことがある。

★今回の判決
判決は、不正取引が続いた間にニューヨーク支店長などを務めた安井健二・元副頭取に
11億ドルのうち5億3000万ドル(約560億円)の賠償を命じた。また、損失発生
をただちに米国当局に知らせなかったことなどで米国の法令に違反したとして起訴され、
罰金3億4000万ドル(約360億円)を支払ったことなどについて、「当局に報告を
遅らせるなどしたことは経営判断として誤りだった」と述べ、安井・元副頭取のほか、海
保孝・頭取、安部川澄夫・元会長、藤田彬・元頭取ら計11人に総額2億4500万ドル
(約260億円)の賠償を命じた。
池田光宏裁判長は、大和銀行の検査体制について「検査対象の元行員に書類をすべて用
意させたことで、書類を改ざんする機会を与えた。大和銀行のリスク管理体制は実質的に
機能していなかった。適切な検査方法を採用していれば、元行員の不正取引は見抜けた」
として「重大な不備があった」と指摘した。そのうえで、検査体制を放置していたことに
ついて、取締役として果たすべき任務に怠慢があったと認めた。「適切な検査方法を採用
していれば不正取引を見抜いて、損失の拡大を防げた。取締役としての注意義務及び忠実
義務に違反した事実が認められる」などと述べた。
また、米国金融当局への報告が遅れたことについては「わが国の経済が発展し、地球規
模に拡大しているにもかかわらず、我が国内でのみ通用する非公式のローカルルールに固
執した」、「リスク管理体制が実質的に機能してなかった」と批判した。被告の取締役ら
が「大蔵省の示唆があった」と主張していることについて、「大蔵省の判断や指示に依存
して銀行経営を行い、自らの責任において判断を行わないことは許されない」と退けた。
株主代表訴訟としては、前例のない巨額の損害賠償。予期しない社員の犯罪で企業が損
失を受けた場合にも、経営陣の監督責任があると判断しており、企業の経営責任を従来以
上に重視した画期的な判決と言える。今後、企業経営に大きな影響を与えるのは必至だ。
★被告ならびに銀行側の反応
大和銀行に与えた衝撃は大きい。この事件の処理にかかわった元役員の一人は「全面的
に請求棄却は間違いない」と、判決前に自信を見せていたが、判決後は一転、「沈黙を通
したい」と口をつぐんだ。
予想だにしない全面敗訴に言葉を失い、バブル以降、不祥事が相次いだ金融界には「犯
罪を見過ごしたことで、損害賠償を求められるとは」と動揺が走った。「当局への隠ぺい
行為は本来、許されないこと。判決は仕方がない。今は株主代表訴訟用の保険も出てきた
くらいで、役員はとても敏感になっている。役員の管理責任が厳しく問われるのは時代の
流れと思う」。ある都市銀行の中堅幹部はそう話した。それだけ経営陣の責任は重くなっ
ているということだ。
大手都銀幹部は「これでは銀行経営者になる人がいなくなってしまう」と言葉を失っ
た。この銀行でもリスク管理を徹底するよう機構改革などに努めてきたというが、「チェ
ックシステムをかいくぐる犯罪を防ぐ自信はない」と明かす。「経営者が主導して銀行に
損失を与えた事件ならともかく、犯罪者の犯行の責任も負わねばならないのか」と話し
た。
隠ぺいをめぐっては、当時、大蔵省も同行から事前に報告を受けながら米国側へ通報し
なかったことが、国際的な批判を浴びた。金融庁の幹部は「この事件で、日本の金融行政
が断罪された。金融業が国境を超えている時代だけに、それを監督する立場では、こうし
た事件は重く受け止めなければならない」と厳しい表情。この幹部は「今はこの事件をい
つも肝に銘じ、検査で分かったことなどをタイムリーに伝えるのに神経質になった。こう
したことは二度と起こしてはならない」と言う。

★原告側の反応
原告は、兵庫県尼崎市に住む大和銀行の元行員西村一朗さん(66)ら同行の株主。
閉廷後、原告側は大阪地裁内の司法記者クラブで記者会見。「罰金の支払いについては
役員の連帯責任がある程度認められ、一応の成果を得た」と評価した。ただ、原告代理人
の吉武伸剛弁護士は「同行に損害を与えた責任については、当時の支店長だった役員一人
の責任しか認めていないなど不満もある」と述べた。一方、「株主オンブズマン」メンバ
ー、阪口徳雄弁護士は「役員の責任を広く認めた画期的判決。日本の企業体質に大きな警
鐘となる」と評価した。

★司法関係者
一見、これまでの常識を超えるような賠償額のように思うかもしれないが、役員が注意
義務を怠ったために巨額の損害が発生したという因果関係が認められれば、賠償額が膨れ
上がるのは当然のこと。
民事裁判官の1人は、経営者は初めて、株主代表訴訟の裸の姿を見たのではないか。リ
スク管理を真剣に見直すきっかけになるだろう、と冷静にみている。

★その後の推移
●被告側
被告49人のうち、20日の大阪地裁判決で総額約830億円の賠償を命じられた11
人全員が22日、大阪高裁に控訴するとともに、支払い命令の強制執行を控訴審判決まで
停止するよう大阪地裁に申し立てた。手続きをとったのは海保孝・頭取、安部川澄夫・元
会長、藤田彬・前頭取、安井健二・元副頭取ら。
地裁判決には仮執行宣言がついており、確定前でも強制執行が可能。原告側は差し押さ
え手続きを進める方針を示している。
●自民党側
自民党法務部会(野間赳部会長)は22日、商法小委員会を開き、株主代表訴訟の損害
賠償額に上限を設定することなどを内容とした商法改正案要綱を、27日の自民、公明、
保守の与党3党による「商法プロジェクトチーム」(座長・太田誠一元総務庁長官)に提
出することを決めた。自民党は、来年の通常国会での改正案提出を目指している。
改正案は、株主代表訴訟への規制設定や監査役の機能強化等により、国際経済の変化に
企業が対応できるようにするのが狙い。
このうち株主代表訴訟については、〈1〉株主総会の特別決議により、取締役の報酬の
2年分を賠償額の限度にできる〈2〉役員の責任を知った後で株を取得した株主は訴訟を
提起できない(原告適格)――などが柱。
現行法では6カ月間引き続き株式を保有している株主なら取得前に起こった案件につい
ても訴訟を起こせる。これが企業経営者からは、「株主代表訴訟を起こしやすくしてい
る」と不満を招いている。監査役の機能強化は、取締役の監査役への定期業務報告の責任
規定を設けることなどが内容となっている。また、株主代表訴訟で取締役が訴えられた場
合、会社は訴訟にかかわることが難しい。これを、全監査役の同意が得られれば、会社が
訴訟に補助参加し、訴えられた取締役を支援できるようにする。
小委員会では、株主代表訴訟で大阪地裁が20日、大和銀行の役員経験者に約830億
円の賠償を命じた判決が出ていることから、賠償額の制限が国民の理解を得るのは難しい
との見方も示された。「賠償額の制限は取締役が悪意や重過失の場合を除くことをしっか
り説明する必要がある」との意見が大勢を占めた。
また、同日の閣議後の記者会見で、相沢英之金融再生委員長は「払えるわけでもない金
額を払えと言われたら本当に参っちゃうと思う。これから職責に就く人が委縮するのでは
ないか」とかで、自民党の動きに理解を示した。ただ、大企業の不祥事や放漫経営による
破たんが相次いでいるだけに、自民党内部にも「大企業経営者の味方という批判を浴びな
いよう、国民に対して説得力のある説明が必要だ」という意見もあった。
●銀行業界
当時は大蔵省と協議しながら経営を進めるのが当然のことだった。あのころの銀行経営
のスタイルは今とは違っていた。大和銀行の事件後、各銀行はチェック体制を強化してき
た。ある大手銀行では、監査部が子会社、関連会社まで検査する。担当者だけでなく、複
数の人間が交互に検査する体制ができている。
しかし、大手銀行幹部は「行員が最初から悪意を持っていれば、どんな手を打っても防
げない」と明かす。デリバティブ(金融派生商品)といった複雑な資金運用が広がるな
か、どこまでリスク管理を徹底できるか。不安はぬぐいきれない。
●安岡法相、賠償額制限前向き
大和銀行ニューヨーク支店をめぐる株主代表訴訟で、大阪地裁が前役員らに計830億
円の賠償を命じる判決を言い渡したことを受けて保岡興治法相は20日夕、「故意や重大
な過失があったのなら別だが、軽い過失だけで高額な賠償を命じられる今の制度は、経営
者を委縮させる」と述べ、賠償額の制限などの商法改正に改めて前向きな姿勢をみせた。
保岡法相は1999年4月、自民党法務部会の「商法に関する小委員会」の委員長とし
て商法改正の要綱案をまとめた。取締役に悪意や重大な過失があった場合などを除き、損
害賠償の責任額を軽減できるようにしたり、原告の要件を絞り込んだりすることなどが柱
となっている。この日も830億円の賠償額について「払えっこないじゃない」と述べ、
「議員立法を進めるなら協力は惜しまない。一刻も早くやるべきだ。こういう判決が出た
らなおさらですよ」と語った。
●法曹界
経済界の意向を受けた政府や与党の見直し論議の高まりに対して、法曹界などには、株
主の権利を守るという本来の趣旨に背き株主よりは経営者の方を向いた改正になるとの警
戒感がある。

★感想
確かに金額だけを見れば、銀行の頭取が払える金額は、せいぜい、数億円止まりという
のが常識としては解る。しかし、株主オンブズマン、阪口徳雄弁護士の「役員の責任を広
く認めた画期的判決。日本の企業体質に大きな警鐘となる」というのが、世論であろう。
第3話でも触れたように、日本の金融業界は、取引慣行面では全くの暗黒大陸であり、消
費者・株主の方向を向いた実業を行ってきたかというと、その逆であった。そのことに対
する咎めが出ているのである。この大和銀行という、大手証券会社系の銀行という体質も
あったことから起きた事件でもあろうが、金融業が国民の大切な資産を預かっているとい
う認識を今一度、肝に銘じる良い機会であろう。そういった意味で、自民党の支払える額
を年収の2年以内になどという案は、本末転倒の枝葉末節論である。それこそ、前回の第
9話で触れた参審制のもとで公明正大に一罰百戒くらいの強い法制度を保たなければ、秩
序規範はなし崩し的なザル法的なものとなり、モラルハザードの蔓延となる。
大手都銀幹部の「これでは銀行経営者になる人がいなくなってしまう」とか、「チェッ
クシステムをかいくぐる犯罪を防ぐ自信はない」、「経営者が主導して銀行に損失を与え
た事件ならともかく、犯罪者の犯行の責任も負わねばならないのか」といったいった釈明
のレベルでは、国民の信託財産を運用する責任感は全く伝わってこない。庶民から見て数
倍の賃金を確保している銀行であるからこそ、経営に対して100%の責任を持つという
のが、本来の姿であろうと思う。830億円、全財産処分の上払います、足りない部分は
ご勘弁下さい、くらいの高潔な人物は出てこないものでしょうか。また、今後の裁判の行
方は別として、金融当局も全く責任がないのかというと、大いに疑問に思う。日本的組織
管理論は、長く終身雇用の慣習が、民間大企業、公務員の間に現在も続いており、今回の
ような事件が起きるといつも思うのだが、大企業のトップであればあるほど、他の業界か
ら優秀な人材をトップ人事で連れてきて経営を刷新するなど、斬新な発想が必要になって
きている。民間では、日産自動車が外国からトップを連れてきて改革を計っていく時代な
のである。来年4月、省庁再編で形の上での行政改革を進めることになるが、本当の行政
改革ははたして可能なのでしょうか。
政治家が倫理なき対症療法的政治を繰り返していると、次の選挙で、間違いなく自民党
は大敗するでしょう。そうなったときの先を考えて、消費者、市民は今から次の社会を創
生する準備をしなければならない。新生児が生まれた時に一人あたり600万円もの膨大
な借金付きを許しているような社会に未来の繁栄などは絶対にないのである

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