無税償却と行政の簡素化

無税償却と行政の簡素化

★大蔵省主導の無税償却はなぜ今頃でてきたか
 ご承知の方もあるかとは思うが、2001年3月2日の中日新聞に、旧住専不良債権の
無税償却1476億円を巡って、国税庁の興銀への追徴課税取り消し判決が東京地裁であ
り、興銀全面勝訴との記事がある。 
 日本興業銀行が、旧住宅金融専門会社(住専)に対する不良債権を貸し倒れ金として無
税償却(損金算入)した処理をめぐり、国税当局から1476億円を追徴課税(更正処
分)されたことを不服として処分の取り消しを求めた行政訴訟の判決が3月2日、東京地
裁であったのである。藤山雅行裁判長は争点の貸し倒れ金の事実認定について「債権の回
収は不能で全額を損金算入すべきだ」として興銀側の主張を認め、国税庁の更正処分を取
り消した。住専に対する不良債権の税務処理をめぐって、銀行と国税当局が争った初の訴
訟で、興銀側が全面勝訴したわけである。
 千億円を超す多額の更正処分が裁判で取り消されたのは例がないそうである。ようやく
三権分立の時代に入ったかという点で注目すべき動きといえる。興銀は追徴税額を仮納付
した上で提訴しているため、このまま判決が確定すると国税当局は興銀に対し、仮納付分
を戻した上、法定利息として400億円を超えるばく大な還付加算金を支払うことにな
る。
 訴状などによると、興銀は1996年3月期決算で、住専の日本ハウジングローン(J
HL)への貸付金3760億円について、政府の住専処理案に沿う形で債権を放棄。事実
上の貸し倒れで回収は不能として、全額を無税償却して確定申告した。 
 これに対して国税当局は、同年3月期時点では住専の解散は未確定で、興銀の不良債権
は全額が回収不能の状態ではなかった、同年末までに住専の解散がない場合に放棄を白紙
に戻す趣旨の「解除条件」が付いている-などを理由に無税償却を認めず、法人所得の申
告漏れを指摘、追徴課税したものである。
 判決で藤山裁判長はJHLへの貸付金について「1996年3月末時点で債権の回収は
事実上不可能だった」と判断。解除条件については「債権放棄の法的効力が発生してお
り、損失は確定しているというべきだ」として、不良債権を貸し倒れ金として無税償却し
た興銀の会計処理を妥当と認定した。
 400億円もの加算利益を興銀が得ることになり、結果的には合法的な国主導の逆マネ
ーロンダリングに等しい醜態を招いたことになる。国税庁財務省の責任がないとすれば、
これも壮大な税金の無駄使いということか。民間でこれだけの不祥事を出せば、即刻首で
ある。誰もお咎めなしと相成るのだろうが、このようなことが起きる直接の原因はあいま
いな裁量行政の延長がまだ続いているからに他ならない。

★大蔵省主導の無税償却
 このように政府が介入する金融処理策には、不透明で、場当たり主義的官僚組織が引き
起こす組織としての非効率、弊害、無駄があちらこちらにある。本来、権限をそこまで持
つべきでないところに、お上の威光をかざして行政指導するところに肥大化した官僚組織
の税金の無駄使いと行政の間違いが多発する根本の原因があるのである。
 先例として、三洋証券倒産の際、三洋証券が保管していた顧客の信用取引の保証金や株
の売却代金などの『預かり金』は400億円以上にのぼっていたとみられている。そうし
た現金は、三洋証券の株の自己売買などに流用され、しかも運用に失敗したのであるが、
大蔵省は行政指導によって、証券、銀行に負担させるという不透明なやり方をとった。具
体的には、不正取引や証券事故による損害を補償するために、証券各社が積み立てている
『寄託証券補償基金』が支払いを肩代わりした。同基金は、一証券会社の補償限度を20
億円と定められていたため、大蔵省の指導で三洋証券に限って上限なしという例外扱いと
した。しかも、同基金には積立金が320億円しかなかったため、急遽、野村証券をはじ
めとする大手証券4社が200億円を拠出し、東京三菱、大和、日債銀の三洋証券の主力
銀行3行が、合計150億円の緊急無担保融資を行なった。要するに、会社更生法に名を
かりて、実態は大蔵省が破綻処理をコントロールした。その上、大蔵省と寄託証券補償基
金に追加負担した証券4社との間で、「負担分については無税償却を認める」という合意
がなされた。これが先例である。だが、「負担分については無税償却を認める」などとい
うのは行政の超法規的判断で、つまり、権限で行われたことなのであろうか。本来、税法
からいって無税償却になるものはなるし、ならないものはならないだけの話で、お墨付き
を出した出さないの筋合いのものではない筈だが、そのあたりの勘違いが依然としてお役
人にはあるようだ。備考をよく読んでいただければ解ることだが、無税償却になるならな
いは、本来、会計上、税法上取り扱いが決まっており、行政の恣意を許す幅があるとすれ
ば、それこそ裁量行政であって、なくさなければならないことなのである。

★不良債権処理 金融担当相「9月末を節目に」の意味するもの
 政府は2001年3月21日、日米首脳会談で主要テーマになった日本の不良債権処理
策の具体化に向け動き出した。宮沢喜一財務相は金融機関の不良債権処理に伴う税負担の
減免に積極姿勢を示したほか、平沼赳夫経済産業相は債権放棄を前提とした産業再生法の
活用方針を打ち出した。柳沢伯夫金融担当相は閣議後会見で「日本経済や株価への影響を
考えながら9月末をひとつの節目としたい」と述べ、不良債権の早期処理を示唆した。ま
た、宮沢財務相は不良債権処理に伴う税制面の対応について、「金融庁のスキームに従っ
て行う場合には、税務処理をどうすべきか決めなければならない」と述べ、金融機関の税
負担を減免する「無税償却」を積極的に適用する考えを明らかにした。
 ただ、無税償却を適用するのは、産業再生につながる場合に限定し、競争力のない企業
の延命につながることがないようくぎをさしたということだが、一見筋がとおっている発
言ではあるが、金融機関の判断に任せればよい問題だと考えられる。ことここに及んで、
まだ、行政関与をし続ける考えを持つのはいかがなものか。マーケットを信任する姿勢を
見せればそれで済む問題だ。一方、平沼経済産業相も閣議後会見で、産業再生法を活用し
た不良債権処理について、債権放棄ができる認定基準として、借り手企業の財務の健全性
を指標とすることを示唆した。具体的には、申請の際に企業が提出する事業再構築計画に
債権放棄が含まれる場合の基準として、(1)キャッシュフロー(現金収支)ベースの収
益で10年以内に有利子負債が返済できる、(2)現金ベースの支払いに問題がなく黒字
倒産に陥らない-を新たな要件として付加することにした。
 ということで、これも行政のオーバーコミットメントで、企業側から産業再生法の申請
を受けた場合に、登録免許税の軽減や政策金融などの支援措置を裁量するのはよいとし
て、銀行の債権放棄をコントロールしようというのは過剰介入であり、金融機関の判断に
任せればよいだけの話である。

★森金融庁長官記者会見の不思議
 2001年2月26日の定例記者会見での森金融庁長官の発言要旨を見てみると、
 「全国銀行で不良債権の処分損を平成4年度から、すなわち平成5年3月期から去年の
9月期まで8年半に渡って、不良債権処分損の合計は約68兆円あった。その処分損、不
良債権の処理したやり方が結局直接償却でやったのか、間接償却でやったのかということ
かについて、ここのところのいろいろ報道を見ていると、いかにも今までは間接償却が中
心であって、直接償却というものは進んでいなかったというような報道が多いが、事実関
係だけで見ると、68兆円の不良債権の処分損の中でオフ・バランス化、すなわち直接償
却によっての処理は54兆円ある。すなわち、約80%が直接償却でやっている状況にあ
る。これだけの直接償却をしても、なお現在30兆円少しというものが残っている。
 直接償却というとイコール清算型直接償却のように聞こえるが、再建型直接償却と清算
型直接償却がある中で、金融庁として、我々がこれから力を入れなければいけないのは、
むしろ再建型直接償却であり、問題ある企業についてはその不採算部門を切り捨てるとい
うことを言っている。つまり柳沢大臣の言葉を借りれば、ミシン目を入れて過剰債務部分
かつ不採算部門、そこを切り捨てていく。その結果、残債、残った債権は、もしその再建
策が極めてリーズナブルでリアリスティックなものであるならば、例でいえば要管理から
要注意に上げるとか、あるいは破綻懸念であったら破綻懸念から残債権は要管理に上げる
ということになる。そうすると、引当金で取り崩せる資金がワッと出るということにもな
る。それは金融機関にとってもプラスであるし、また相手方企業にとってもプラスにな
る。そういうような、再建型の直接償却というものをやはり中心に考えていかなければい
けない。」
 以上の発言を見てみると、今までも直接償却はやってきたということだし、切り捨てた
不良債権に代わって、比較的良質なものを引当金に上げるということで、大手銀行が今ま
でやってきたことにほかならない。つまり、冒頭の興銀勝訴をふまえて、行政が正しいこ
とをやってきたということに、つじつまを合わせるために難解な表現をしているものと解
釈できる。こういうのを言語明瞭、意味不明ともいう。お役所の得意技だ。こういうこと
で糊口をなしている連中が日本には肥大化増殖したということだろう。
 いずれにしても、3月以降、中小の倒産は急に増えているし、民間企業は無税償却の意
味をよく理解して国税にむしり取られないように、主体性を持ったバブルの精算を進めて
いくことが必要である。

★バブルの後始末という意味
 土地資本主義万能の時期、バブルが発生した最大の理由は銀行による貸し圧力があった
ことである。貸し圧力を受けた不動産会社やゼネコンも同時に圧力を好機ととらえて借金
をして不動産を買いあさった。この責任は貸した側、借りた側双方にあることは言うまで
もない。ところがその後始末についての失政は、国が経済社会のあるべき姿を不明確に
し、行政の簡素化を図らず、旧態然とした行政指導と公共事業のバラまきに終始し、適切
な政策をとってこなかったところにある。とくに不動産、ゼネコンに対する対策が取られ
ていない現状がある。このことがバブル崩壊のショックから立ち直れずに経済全体が混迷
している主要原因となっている。わが国ではこの業界に働く従業員数はおよそ6百万人と
言われ、世帯の平均を3.5人とすれば関係する日本人は約2100万人となり日本人全
体の5人に1人の数値になる。このような土建国家が未来永劫続くはずがなく、不動産業
界に村する対策を怠ったまま経済の立て直しなど出来る訳はない。
 それではどうするかであるが、まずやらなければならないことは莫大な債務を抱え込ん
で身動きのとれないゼネコン、不動産関連業界に対して転業、退場を速やかに促し、労働
人口の最適配置を促す政策を実施することがひとつである。他方、土地については未利用
地に対して市場メカニズムによる放出を促進するため、固定資産税の強化を通じて土地の
放出を図る仕組みを作り、良質で低価格の土地の供給を国が先頭をきって確保し、住宅市
場の活性化を図るなどの策を推進すべきである。住宅ローンの税制優遇などの措置は、建
物そのもののあるべき姿に何も踏み込んでいない不十分な施策だ。
 また、現状は銀行が債権を放棄しないため、不動産会社は土地を売ることも、再投資し
て有効利用することも出来ないのであるから、債権放棄をするか、競売による市場メカニ
ズムで土地を整理させる方式をとればよい。銀行はゼロ金利政策のお陰もあって空前の業
務利益を上げており、従来、不良債権をバランスシートに残したままの引当金方式による
有税償却から、条件が整えば、引当金方式によらない直接消却方式を、この空前の業務利
益を使って進めることができる現状にある。

備考:
<直接償却>銀行の不良債権処理の手段として、返済の見込みが小さい取引先との融資関
係継続を前提にせず、貸し出し資産を貸借対照表から切り離して、将来の損失発生をなく
すこと。融資の引き上げ、債権自体の売却や債権放棄などの方法がある。融資先の信用不
安につながりやすい。 
<間接償却>  
 貸し倒れによって発生が予想される損失に備えて用意しておく「引当金」が、不良債権
額全体のどれだけに相当するかを示す比率を不良債権の引当率と呼ぶ。 
 融資が実際に焦げ付いて損失額がほぼ確定した回収不能債権(第四分類)は、引当金を
取り崩すか、利益や資本をその穴埋めに回して処理する。これを「償却」という。損失が
確定した不良債権の担保不動産などを売却するなどして償却し、帳簿上の「資産」から債
権を落としてしまうことを直接償却という。これに対し、引当金を積む一方で、融資先か
ら返済を求めることができる権利は持ち続けて帳簿上に残したままにしておくことを間接
償却という。 
<有税償却と無税償却>
 税法には、「有税償却」や「無税償却」という言葉はない。税務の上では所定の要件を
満たした場合に、貸倒損失や債権償却特別勘定、貸倒引当金、子会社等整理損などを損金
の額に算入することができる。これが、「無税償却」にあたる。
 一方、企業会計上、貸倒損失などの科目で債権を償却していても、実際に担保債権を残
したままなど、税務上の要件を満たしていないと損金の額に算入することができない。ま
た、貸倒引当金の繰入限度超過額は有税引き当てとなる。これらは、いわば「有税償却」
ということになる。なお、企業が子会社等を整理する際に債権を放棄した場合、相当な理
由があるときは寄付金ではなく、子会社等整理損として一括して損金の額に算入できる。

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