日経新聞2024年8月1日 10:09 (2024年8月1日 20:15更新) [会員限定記事]
太陽光ケーブルの盗難被害が1〜6月に4161件に上り、通年換算では2023年比で1.5倍のペースで推移していることが1日、警察庁の初集計で分かった。ケーブルを切断し持ち去る手口が多く、被害は関東に集中。素材となる銅などの価格高騰が背景にあり、外国人による犯行が目立つ。警察や自治体は盗難品の流通経路への監視を強めている。
警察庁によると24年上半期に確認された太陽光ケーブルの盗難被害のうち89.8%は関東で発生した。摘発した60人のうち65%は外国人で、カンボジア人(28人)が最多だった。23年通年の被害は5361件だった。多発を受け、全国の状況を初めて分析した。
手口は単純だ。群馬県のカンボジア人グループは夜間に大規模な太陽光発電所に侵入、ケーブルを切断して車に積み込み盗み出していた。22年9月〜23年7月に関東5県で76件、被害総額は計約2億5400万円に上った。
盗んだケーブルは金属買い取り店で売却し、自身の生活費や自国の家族への送金などに充てていたという。
太陽光ケーブルを含めた金属盗全体でも被害は23年に1万6276件に上り、20年と比べ3倍に増えた。発生場所は茨城(2889件)、千葉(1684件)、栃木(1464件)、群馬(1437件)、埼玉(1172件)と関東地方の県が上位に並ぶ。
増加の背景には金属の価格高騰がある。非鉄金属製造・販売のJX金属によると、国内の銅の取引価格の基準となる銅建値の24年7月時点の月間平均価格は1トンあたり154万400円で、20年7月時点(同72万1400円)と比べ2.1倍になっている。
脱炭素の機運の高まりを受けて太陽光発電や電気自動車(EV)に使う銅の需要が伸びた。ロシアのウクライナ侵略に伴い、欧米がロシア産の銅やアルミを禁輸したことも影響する。警察幹部は「金属の高騰に伴い犯罪の効率も上がっている」とみる。
ケーブル以外では建設現場の地面に敷く鉄板やグレーチングと呼ぶ格子状の側溝の蓋も被害に遭っている。公園の水道の蛇口やエアコンの室外機といった身近な金属品が盗まれ、暮らしに影響が出るケースもある。
さいたま市岩槻区の市立中学校では6月に校内設備に電気を供給する外壁のケーブルが盗まれた。発生当日は電気を使えず、給食を出せないため短縮授業を余儀なくされた。200万〜300万円の復旧費用がかかったという。
外国人のグループによる犯行が多い点について、捜査関係者は「不法滞在でも働ける職場の情報をSNSで交換しているうちに犯行に加わる傾向にある」と話す。警察庁の露木康浩長官は5月の記者会見で「治安上の大きな課題」と警戒感を示した。
摘発の強化とともに求められるのが盗難品の流通阻止だ。盗まれた銅線などは産業廃棄物の「金属くず」に分類され、盗品の不正な売買を防ぐ古物営業法の対象から外れる。中古品と比べ、売却時の身元確認は厳格ではない。
自治体には条例を新設・改正して身元確認を義務付ける動きが広がる。千葉県は7月、銅線といった特定の金属製品を売買する業者を対象に営業を許可制にし、取引相手の確認と帳簿への記載を義務づける条例を成立させた。25年1月にも施行する。
千葉県警の担当者は「県単独で条例を導入しても、他県で売却できてしまえば十分な被害の防止にならない。条例の内容を他県などにも周知したい」と話す。警察庁も法規制について実態に合った運用を協議するとしている。
(藤田翔)