田中康夫現象と政治の迷走

田中康夫現象と政治の迷走ぶり

◆田中康夫現象とは
長野県知事選で、政官業の総保守に支えられた前副知事が作家の田中康夫氏に完敗し
た。官僚政治を凝縮した長野県の出来事であるが、無党派層、一般市民の反乱という点
で、意味深いものがある。来年夏の参院選に向けて選挙制度を変えてまで、現状勢力の維
持を企てようとする自民党にとって、表向きの「国政に影響を与えるものではない」との
強弁とは裏腹に、感性のいい人は相当な打撃を感じていることであろう。要するに既成勢
力が飽きられた、政党政治は終わったということ、民革の動きが着実に育っているという
ことである。県政のプロ、国勢のプロを自認する人達が牛耳ってきた行政の結末は赤字国
債、公債の垂れ流しと無責任社会の蔓延であったことを考えれば、当然のことである。
民間企業で景気のよいところでは、つまりは健全財政の会社に共通していえることは、
官僚的組織に代わって、組織横断的、かつ、中間管理職の中抜きによって経営の意志決定
を迅速化し、より創造的に経営を行える体制を整えてきているという現実がある。つま
り、リストラが急速浸透し功を奏しているということがある。ところが、公的組織では主
任、係長、課長補佐、課長、部長、、、といった職制に始まり、意味不明の副参事、参事
等の職能を表す肩書きがやたらと蔓延しており、どれだけ生産的な仕事をしているかとは
全く関係がない。高知の橋本、三重の北川、宮城の浅野、東京の石原知事に続いて革新的
な田中知事が何をやるかじっくり見てみたい。その場合、リストラと財政の健全化がキー
ワードだ。本人は、TV談話で職員の給与に手をつけることは断じてないといっている
が、このあたりが甘さかなという心配がある。
もはや、時代は政治家に全てを任せる時代ではなく、地方自治においての知事選挙は、
長野のように地域住民が明確な意思表示を行う選挙となってくるであろう。長野選挙につ
いて、山崎拓さんが「すべての政党は権威を失った。政党は、国民の感性をキャッチする
能力を失ったのかもしれない」と語っているのが印象的である。
長野ショックは、経済界や建設業界など「保守の地盤」にも亀裂が入った。何しろ地元
有力銀行の頭取が保守候補を見限って、田中康夫候補を支持表明したのであるから、公共
事業や補助金をテコに締め付ける従来型の選挙手法は完全に失敗に終わったといえる。こ
れからの知事の反乱が楽しみである。

◆参議院比例区の非拘束名簿式の導入をめぐる迷走ぶり
選挙制度を巡っては、定数是正という基本的問題が議論に上らず、方法論だけで、しか
も参議院比例区に関してこれだけもめるのもめずらしい。
ところで、そもそも野党が猛反発している「非拘束名簿式」とは何なのか。現行の参議
院選挙制度では、個人ではなく政党に投票するシステムになっている。つまり、各政党が
比例代表区の名簿の順番をあらかじめ決めておいて(「拘束名簿式」)、当選者数にした
がって上から順番に当選させるわけである。これと違って、非拘束名簿式では、候補者の
個人名あるいは政党名のどちらでも投票ができる。当選者数は、各党ごとに候補者および
政党の得票を合計したものから比例配分し、各党内で得票数の多い候補者から優先的に当
選することになる。
非拘束名簿式が導入されれると、各政党は、知名度の高いタレントや俳優、スポーツ関
係者などを参院選に擁立しようとするとかで、候補者選びで知名度が左右するというのが
本当だとしたら、なんとも国民を馬鹿にした話だ。また、非拘束名簿式が導入されれば、
参院選は1983年以前の旧全国区に逆戻りしてしまうのではないかということもある。
旧全国区は、もともと選挙費用がかかりすぎることから「銭酷区」などと揶揄され、知名
度の高いタレント候補や集票力のある組織の代表が有利であることが問題視されて、現行
の選挙制度へ変更されたという経緯がある。
いずれにせよ、与党側は充分にこの案件では審議をしつくした、野党側が審議に応じな
いというのが、形式上の事実であるからやってみるがいい。よく言われることであるが、
法的(手続き的)に正しいからといって、正しい、正義であるということとは無関係だ。
このようなことは、民主主義が成熟していないとよく起こる現象で、職業政治家の暴挙が
許される文字通り世紀末の現象なのであろう。21世紀にはこのようなやり方は成立しな
いことは目に見えている。国民の情報が共有化され、ごまかしが利かないいわゆるIT本
格時代には、国民自身があらゆる面で主役となるからである。非拘束名簿式が是か非かを
巡るmsn投票結果は下記のようになっている。

賛成・遅すぎたくらい:    497票
賛成だがもっと審議が必要:  909票
反対・問題のすりかえ:   3915票
反対・現行制度でよい:    947票
参院自体が無駄・廃止せよ: 2481票
その他:           252票

◆政策の貧困とその場主義
政府・与党は2001年4月に廃止を予定していた個人の株式譲渡益に関する源泉分離
課税方式を当面存続する方向で検討に入ったとのこと。当初は申告分離課税に一本化する
方針だったが、このところ低迷している株価動向にも配慮し、少なくとも1年は源泉分離
を残す案を軸に調整する。投資家の間で申告分離だけになると、株式取引の手間が煩雑に
なるとの警戒感や、実質的な増税になるとの見方が広がっていることに対応するというの
がその理由。年末までに延長期間などを詰め、2001年度の税制改正に盛り込む。
キャピタルゲイン課税と呼ばれる個人の株式譲渡益に対する課税は現在、売却額の1.
05%を所得税として天引きする源泉分離と、年間売却益の26%を確定申告で納める申
告分離の選択制となっている。これを脱税との関係で(売買利益が大きくとも1.05%
で済ませることが現状では可能)、申告制一本にすべきだというのが当初の考え。行財政
改革の一環として、金融自由化ともに橋本内閣の時に決着済みの問題であるが、またぞ
ろ、参銀選挙制度同様、亀井筋のよこやりで復活させようということらしい。要するに、
行き当たりばったりの政策なのである。理念をもって決めたものならば、実行するのが本
筋なのであるがそれをねじ曲げられるというところに、日本の職業政治家の問題がある。
もっとも、こういう人間が跋扈する時代は終焉の時を迎えているが。そもそも、株価が低
いから、源泉分離廃止を先送りしなければならないというのが姑息な考えであり、本当に
最高学府を出たのかということを疑いたい頭脳ぶりである。株価が低いのは経済の実態が
悪いからであって、株式の譲渡益課税とは全く関係がないことくらい素人が考えても解り
そうなものだ。そんな小手先のことを考えるのではなく、目の覚めるような、行政改革を
打ち出せば、マーケットが評価をし、結果として株価なんてものは上昇するものなのであ
る。 そこで、本年度下期の補正予算の真水で3兆9000億円という国費投入である
が、公共事業関係費に1兆5000億円、学校施設などの施設費に1兆円、その他、中小
企業向けに拡大する信用保証枠や、地方の財政支出などとなっているが、いったい誰のお
金を使うのか訳の分からぬ補正予算に国民は正直飽いている。国民が望んでいるのは、官
庁のリストラなのである。財政支出の削減なのである。

◆2週続いた戦後最大倒産についてデータを少々
10月9日に、戦後最大の倒産ということで千代田生命保険が逝った。内容を簡単に見
てみると、
千代田生命保険相互会社 更生特例法の申請第1号、生命保険会社では初めての倒産
負債2兆9366億円  資産総額3兆5019億7400万円(93年には6兆円台)
従業員1万3013人   10月9日に東京地裁へ更生特例法の適用を申請し、同日保全
命令を受けた。
ピーク時の92年3月期には年収入高約1兆4991億6800万円を計上していたが、
98年3月期には年収入高が約7802億9200万円にまで落ち込んでいた。2000
年同期の年収入高は約5130億3400万円とさらに落ち込んでいた。
ソルベンシーマージン比率(200%を下回ると業務改善命令が発動される)も263%
にまで低下。負債のうち、保険契約に基づく準備金が約2兆6413億円、同準備金以外
の債務が約2953億円で合計約2兆9366億円。
以上のデータから判断すると、従業員は半分以下の5000人でやっと経営を維持できる
かというレベルの会社であり、よくことまでもったのが不思議なくらいな気がする。
また、10月20日には、戦後最大の倒産を塗り替える協栄生命保険が逝った。内容を簡
単に見てみると、
負債4兆6000億円  資本金575億9821万7000円、
従業員1万3573人  10月20日に東京地裁へ更生特例法の適用を申請した。
協栄生命によると、9月末時点の見込みで、約45億円の実質的な債務超過に陥ってい
た。
ピーク時の94年3月期には年収入高約9655億5100万円を計上していた。
2000年同期の年収入高は約6268億4600万円にまで落ち込んでいた。
ソルベンシーマージン比率も210.6%(2000年3月末時点)と低い
千代田生命同様、従業員は半分以下の6000人でやっと経営を維持できるかというレベ
ルの会社である。
千代田にせよ、協栄にせよ、日本にはえらい会社がまだ生き残っているものだと感心を
する。同時に、こういう状況では、倒産は継続的安定的にここ1,2年は続くのではない
だろうか。

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