自衛隊イラク派遣は正しい選択にならない
2003年3月の米軍イラク侵攻以来、日本政府の日米同盟としての選択が問われ続け
てきた。いよいよ、来年から自衛隊派遣が実施されようとしている。国民の過半数は明ら
かにこの選択に対して反対の立場だ。イラクが危険地帯であるから自衛隊を送らない方が
いいという意味だけで、国民の過半数が自衛隊の派兵に反対しているという訳ではない。
内閣、中でも総理大臣の国民に対する説明責任が欠けていることが問題なのだ。
いくら憲法の前文を引き合いに出して、「われらは、平和を維持し、国際社会において、
名誉ある地位を占めねばならない」、「いずれの国家も、自国のことのみに専念して他国
を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に
従うことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立とうとする各国の責務であると信
ずる。」という論理は、正当に機能している政府なればこそ許される論理であるが、現代
の日本のように、役人国家で自国の国内問題を何一つ改善できない現状にあっては、背伸
びをした空虚な論理だ。財政は破綻し、生産性の全くない役人・政治家という扶養家族を
多数抱えた国民の気持ちを到底、理解しているとは思えないからだ。
自衛隊派遣の是非は、筆者の持論である日本国憲法改正問題と大いに関わってくる。
石原都知事は、自衛隊の派兵積極論者であるが、「日本がテロの攻撃にさらされたら打ち
負かしてやればよい。日本の軍隊は強いのだから」といった。いささか乱暴な表現が最近
は目立つようになった。日本が大統領制の国家のもとでは、あってもいい論理ではある。
韓国がなぜ、派兵の立場をとり続けられるか。それは、大統領制国家であるからだ。
民意から直接選ばれた大統領であるから、議会との意見の違いはあっても、国民との意識
のぶれは少ない。日本の首相が決めたことを、大多数の国民が支持しないという事実があ
りながら、国民が何も行動しないというのは、極めて、不健全かつ不条理な国家というこ
とになる。現政権は、過去から将来にかけて、財政、税、国民福祉といった国内問題を解
決する抜本的方向と何らかの成果を出しているだろうか。民主党が政権をとっても、さら
に、惨めな結果となることを国民は見抜いているが故に、あり地獄に向かってひた走って
いるというのが、現状ではないだろうか。将来の方向性をもっとも明確なことばで語ると
いうプロセスを踏まない限り、自衛隊派遣は必ず失敗する。
国民が今望んでいるのは、将来の方向性の基盤となる、憲法改正の問題(これには議員
定数の問題から、小さな政府の考え、地方自治のあり方、自衛隊の軍隊としての位置付け、
財政、福祉、国際関係に至るまでの課題解決が含まれる)を明確にするということだ。
■議院内閣制と大統領制■
現代国家では、議院内閣制もしくは大統領制を採用しているところが多い。この二つの
制度では、「三権分立」、すなわち立法、行政、司法の相互の分立面での運用の仕方が違
う。
議院内閣制の場合、行政権と立法権が不完全な分立になっている。内閣は議会の信任と構
成員によって形成される。また、内閣は与党第1党の後ろ盾を基盤とするため、議会に対
して第1党に連帯的な責任を負うという制度である。先進国の中では、イギリスや日本な
どが、この制度を採用している。2大政党制を奉ずる議員はイギリス型を模範例とするが、
中曽根大勲位等に代表される論者はアメリカ型の大統領制に近い首相公選制を信奉する。
しかし、大統領制にもさまざまな種類や形態がある。「アメリカ型」の大統領制や「フラ
ンス型」の大統領制などだ。
特にアメリカの場合、行政の首長としての大統領が絶大な権限を持つ。国民に直接的に(実
際は間接的に)選ばれた大統領が、議会や裁判所と一定の距離を置いていて、身分的にも
独立しているのが特徴である。また、アメリカ大統領は議会に議席を持っていない。議会
の解散権は持たないが、法案の拒否権を持っている。
「フランス型」の場合、大統領が国家元首であり、首相を任命する権限を持っている。流
血のフランス革命を経た後に確立したものである。大統領は首相と内閣に議会への対応や
内政を任せ、大統領自身は外国での国王・天皇に代わる外交的な役割分担が行われる場合
が多い。もちろん、首相のほうが外交的な活動を多く受け持つ国もある。フランス型の国
は、そのほかにドイツやロシアなどがある。
明治維新という、無血革命を土台とする我が国の選択は、象徴としての天皇制であるこ
とから、フランス型はあり得ない選択だ。したがって、日米の経済的社会的交流という過
去の実績から考えても、アメリカ型大統領制がもっとも自然な選択となる。
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