再生可能エネルギーの罠

送電線の限界を超えた設定量7000万kWは完全に画餅であり、電力会社の負担は耐えられない水準だ。

毎日新聞 2014年10月16日 東京朝刊

経済産業省は15日、総合資源エネルギー調査会新エネルギー小委員会(委員長・山地憲治東京大名誉教授)で再生可能エネルギー固定価格買い取り制度(FIT)の抜本的な見直しに向けた検討を本格的に始めた。九州電力など電力5社による再生エネの新規受け入れ停止で、再生エネ事業者には混乱が広がっており、経産省は早急な対策を迫られている。再生エネの導入推進に伴う国民負担をいかに抑制するかも大きな課題で、政府の再生エネ拡大への姿勢が問われることになりそうだ。【中井正裕、安藤大介、寺田剛、遠山和宏】

「太陽光発電を抑制しなければ、他の再生エネの導入に支障をきたす」「再生エネ受け入れ停止は制度の信頼を揺るがす」。この日の委員会では、FITの見直しを求める意見が相次いだ。

再生エネを巡っては、北海道、東北、四国、九州、沖縄の電力5社が新規受け入れを停止。6月時点で認定を受けた再生エネは全国で計7178万キロワットに達し、電力5社は認定を受けた再生エネの電力が大きすぎて、電力供給が不安定になり停電になる懸念もあると説明している。

再生エネの導入拡大には、(1)送電線を整備し余った電力を他地域に流す(2)蓄電池に蓄える(3)再生エネの出力を抑制する−−などの対策が必要となる。こうした対策を組み合わせれば、再生エネの電力が大きくなっても受け入れ拡大は十分可能だ。実際、太陽光と風力の発電の割合が10%を超えるドイツやイタリア、25%に達するスペインでは欧州域内で電力の過不足を調整することで安定供給を実現している。

しかし、経産省や電力会社の対応は後手に回った。経産省の研究会は2010年、太陽光発電が1000万キロワットを上回ると蓄電池の設置や送配電網の強化が必要と指摘していた。だが、今年6月に太陽光が1000万キロワットを大幅に上回ることが確実となるまで具体的な対応をとってこなかった。

対応の遅れについて経産省は「設備が太陽光に偏重しているほか、将来的に国民負担が重くなる可能性があり、制度の見直し抜きに送電線の増強に踏み切れなかった」と説明する。経産省の試算では、今年6月までにFITの認定を受けた再生エネがすべて稼働した場合、買い取り費用が年間2兆7018億円に達し、平均的な世帯の電気料金に上乗せされる負担額は月935円となる。再生エネの導入を拡大するために送電線を増強すれば、国民負担はさらに増える。

このため15日の委員会では、国民がどの程度の負担を許容できるかをアンケートなどで調査する案が示された。また、買い取り価格を抑制するために認定に入札制度を導入し、コストの安い再生エネを優先的に導入することも検討。風力や天候に左右されない地熱を推進し、太陽光偏重を是正することも課題に挙がった。

経産省は年内に一定の結論をまとめ、年明け以降にスタートする来年度の買い取り価格の議論に反映させたい考え。だが、再生エネを含む将来的な電源比率の目標を示す「エネルギーミックス」策定の議論は「原発が実際に再稼働するまでは、原発の目標が示せない」(経産省幹部)ために進んでいない。再生エネの導入目標が原発比率に左右される懸念があり、「再生エネの推進に向けた対応も難しい」(同)との声も上がっている。この日の委員会では「制度の問題が再生エネバッシングにつながることを懸念する」「原発にもコストが掛かっている」などと原発依存への回帰をけん制する意見も相次いだ。

◇電力5社受け入れ停止、事業者ら混乱 「まるで闇討ち」

電力5社の再生エネの受け入れ停止は、再生エネ事業者や自治体に混乱を巻き起こしている。「なぜ6月に現状を把握しながら発表しなかったのか。即時中断とは、まるで闇討ちだ」。九州電力が今月1日に福岡市内で開いた説明会では、非難が相次いだ。

福岡県飯塚市の再生エネ事業者は、長崎県佐世保市に約3万平方メートルの土地を購入し、出力2000キロワットの大規模太陽光発電所(メガソーラー)計画を進めていた。同社幹部は「鹿児島県で予定していたメガソーラー事業を九電に勧められて九州北部に移した。今さら九州全域で中断するといわれても」と頭を抱える。

10キロワット以上の太陽光パネルを設置した新居の棟上げを終えたばかりという中年男性は「売電収入を見込んで住宅ローンを組んだのに、九電も住宅メーカーも責任をとってくれない」と声を荒らげた。

長崎県五島列島の北端にある佐世保市の宇久島では、京セラなど大手企業5社による世界最大級のメガソーラー計画が進んでいた。島の4分の1に太陽光パネルを敷き詰め、海底ケーブルで九州本土に電力を売る予定だったが、計画の行方は不透明に。過疎の進む宇久島では150人の雇用を生むはずだった計画への期待は高く、島内の建設会社社長の赤木幸徳さん(61)は「若者が去る現状を変えたい」と計画実現に望みを託す。

再生エネを福島原発事故からの復興の柱と位置付ける福島県も2040年に県内エネルギー需要の100%以上を導入する計画だが、見通しが立たなくなっている。

経産省は専門家会合で年内をめどに電力各社の受け入れ可能量を算定し、追加受け入れを求める考えだ。再生エネの導入拡大には送電網の増強が必要となるが、多額の費用がかかるため電力各社は「負担について国の議論を注視したい」(九電幹部)と慎重だ。

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