電力自由化が行き詰まっている

電力自由化が行き詰まっている。契約中の電力会社が電力供給を停止する場合、需要家は新たな電力会社へ契約を切り替える必要がある。新しい契約先が決まらない場合には、一般送配電事業者(10電力会社)の「最終保障供給」を受けることになる。これは、体の良いペナルティー値上げと言うことだろう。

最終保障供給とは、需要家がどの電力会社とも契約のない無契約の状態になっても、電力の供給が停止しないようにする仕組みだ。電力契約のセーフティネットと位置付けられており、大手電力会社の標準料金メニューより2割高い料金に設定されている。

このため、体力の弱い配電業者に拘わらず、大手の新電力会社の中からも撤退もしくは契約解除が相次いでいる。中小企業で変電所を持っているところでは、新電力の電気購入先から撤退通告を受け、泰然自若とはいかず慌てふためく。新電力の撤退が続くと、最終的に数社に自然淘汰はされるだろう。従前の10電力会社の勢力復活とオリガルヒ的な新電力が生き残るのか。2割高い最終保証供給の適用には、時限的な措置を講ずるなどの行政対応は必須であり、経済産業省は早急に対応しなければならないのはもちろんだが、新自由主義の基に経済産業省主導で始めた制度も、早くも制度疲労ということか。

新電力の中には、この機とばかりに保工分離(電気保安管理業と電気工事業の利益相反を避ける考え方)ならぬ保商分離(電気保安管理業と電気販売業の利益相反を避ける考え方)を形骸化する動きが顕在化している。通常は電気を販売し料金を請求する会社と電気保安を担う法人もしくは管理技術者は兼任することがなく、利益相反が起きないように制度化されている。しかし、新電力の淘汰の過程で、その中には電力を販売し、かつ、電気保安を担う者が実質的に同一で、請求も同一のため、その料金請求システムの不明瞭化、歪んだモノポリーを生むオリガルヒ化を生む。このことは、技術者の技能、サービス内容の低下と言った副次的影響もでてくるだろうし、新たな保安管理市場における独立開業市場の開拓を困難な方向に向かわせている。電力自由化では新しい資本主義経済に於ける競争を通じ、より安く安定的な電力を提供する目的があったはずだが、手段と原則を放任したままでの新電力新エネルギー推進の咎が明確になってきたのではないか。

700社もあるという新電力会社だが、自前の発電所を持たない会社についての何らかの制限措置も必要であろうし(最低発電率の設定)、撤退をしていない会社による代替先を定めない安易な契約解除(赤字が大きい顧客先に)の動きを規制し、責任意識を持たせるなど打つ手はいくらでもあるはずだ。

相次ぐ新電力の倒産。撤退含むとその数は31社に(帝国データバンク、「『新電力会社』倒産動向調査」より)

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新電力、新規契約停止相次ぐ 燃料高で電力調達費かさむ

新電力、新規契約停止相次ぐ 燃料高で電力調達費かさむ

700社超乱立、淘汰加速へ 日本経済新聞

電力の卸価格が高騰している

ガスなどの燃料高が電力の取引価格を押し上げ、自前の発電設備が乏しい新電力の経営をむしばんでいる。卸電力市場からの調達価格が顧客への販売価格を上回る「逆ざや」状態に陥る事業者が続出。電力プランの新規契約を停止する動きが相次ぐ。経営環境が悪化する中、700社超が乱立する新電力の淘汰が加速しそうだ。

2017年2月設立の新電力、グリーンピープルズパワー(GPP、東京・新宿)は22年1月、法人向けの高圧電力プランの新規受け付けを止めた。竹村英明社長は「顧客の増加は経営上のリスク。新たに受け入れられる状況にないため営業活動も控えている」と話す。

GPPはグループ会社が発電設備を保有しているものの、販売電力量の約4割を日本卸電力取引所(JEPX)で調達している。欧州ガス危機の影響で21年9月ごろから液化天然ガス(LNG)のスポット(随時契約)価格が上昇し、JEPXの取引価格も10月ごろから上がり始めた。

24時間平均の取引価格は1キロワット時当たり10~30円程度で推移しており、21年11月の平均価格は約18.5円と前年同月比3.3倍となった。GPPの電力調達コストはこの時点で想定の2倍に達した。「電気を売れば売るほど損失が膨らむ。このまま何もしないと会社が危ない」と竹村社長は頭を抱える。

21年12月期決算は最終損益が3200万円の赤字になった。複数の発電事業者と電力購入に関する相対契約を結び、取引所に調達を依存する状態から脱することで事態打開につなげようとしている。

自治体向け電力供給を担うホープは21年7月ごろから新規顧客の受け付けを停止した。自治体では電力調達を一般競争入札で決めているケースが多いが、入札への参加自体を控えた。

自治体との契約期間は通常1年間に設定されているため、順次満了を迎えている。販売電力量は21年7月に3億6000万キロワット時だったが、22年1月には3億1000万キロワット時に減少した。

ホープは自社の発電設備を持たず、販売電力量の大半をJEPXで購入している。1月にはJEPXから1キロワット時当たり平均26.8円で電力を調達し、顧客に同14.9円で供給するなど原価割れが常態化している。担当者は「赤字続きだが、既存顧客との契約まで打ち切るわけにはいかない」と嘆く。

LNGの在庫不足などで20年12月から21年1月にかけてJEPXの取引価格が高騰した際、ホープは約80億円の損失が発生し、21年6月期の連結決算では最終損益が69億円の赤字となった。21年6月末時点で24億円の債務超過に陥っており、同年12月末には80億円まで拡大した。

このほか、環境関連事業などを手掛けるボーダレス・ジャパン(東京・新宿)は22年1月に「ハチドリ電力」のオール電化プランの新規加入を停止した。害虫駆除のサニックスも21年12月から一般家庭向けプランの受け付けを止めている。

電気・ガス料金の比較サイトを運営するENECHANGE(エネチェンジ)によると、顧客数の拡大を抑えるため、広告出稿やキャンペーンを控える新電力が増えている。「引っ越しシーズンは新電力にとって書き入れ時のはずだが、今年は新規顧客獲得に向けた動きが鈍い」(同社)

新電力は21年ごろから経営破綻が増えている。20年12月から21年1月にかけてJEPXの取引価格が高騰したあおりで、新電力大手のF-Power(エフパワー、東京・港)が21年3月に破綻。新電力のパネイル(東京・中央)やアンフィニ(大阪市)、フェニックスエナジー(東京・中央)なども相次ぎ倒産した。

大手新電力の幹部は「卸電力市場のボラティリティー(変動率)が高まる中、電力小売事業は『ハイリスク・ローリターン』になっている」と指摘する。十分な採算が見込めないと見切りをつけ、新電力のハルエネ(東京・豊島)やリケン工業(神戸市)、スマートテック(水戸市)が高圧電力販売から撤退した。

16年4月に電力小売りの全面自由化が始まって以降、異業種などから参入した新電力は700社を超える。自前の発電設備を持たない多くの事業者にとって、卸電力市場の価格高騰は死活問題となる。天然ガスなどの燃料高は長期化の様相を呈しており、しばらくは厳しい経営環境が続きそうだ。

(清水涼平

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電気料金、5年で10%上昇 小売り自由化の恩恵乏しく

太陽光パネルを設置した住宅が立ち並ぶ(神奈川県藤沢市)

2016年4月に電力小売り全面自由化が始まって5年半。700社超に膨らんだ新電力は大手電力の寡占構造を崩したが、主要4電力の電気料金は平均で10%超上がり、消費者に恩恵が及んでいない。化石燃料への依存が続き燃料高が影響しているうえ、電気料金に上乗せされる再生可能エネルギー普及のための賦課金も上昇しているためだ。

増す家計負担

東京電力ホールディングス関西電力中部電力九州電力の小売部門が毎月公表する家庭向けの電気料金の推移をまとめた。21年9月の標準家庭の電気料金は東電だと7098円、関電は6826円、中部電は6747円、九電は6564円になる。

各社は16年春~冬に標準家庭のモデルを改めた。電気の使用量を月290~300キロワット時から250~260キロワット時に引き下げたため、モデル料金もそれまでより下がった。21年9月の電気料金は、今のモデルに改定した後の料金より9~16%高い。4社平均の上げ幅は12.5%に達した。

総務省によると、21年7月の全国消費者物価指数(15年=100)は102.1。厚生労働省がまとめた20年の一般労働者の月額賃金は、30万7700円と16年比1.2%増にとどまる。日本全体の物価が上がらず、賃金は伸び悩むなか、2桁を超える電気料金の上昇で、家計への負担は増す。

大手電力の料金が自由化で下がるどころか上がっているのは、発電燃料に占める液化天然ガス(LNG)への依存度が高いからだ。LNG依存が電気料金に如実に反映したのは20年末~21年初。日本を寒波が襲い、アジア市場のLNGのスポット価格は100万BTU(英国熱量単位)あたり30ドル前後と1カ月で3倍近く上がった。東電の場合、21年1~9月の上げ幅は12%に達した。ほかの3社も6~11%上がった。

自然エネルギー財団によると、20年の日本の電源構成のうちLNGの比率は34%。16年度から8.2ポイント減ったものの、全電源の中で最も大きい。原子力発電所の再稼働が遅れる中、電力大手は休廃止したLNG火力発電所を相次ぎ動かして対応にあたる。

蓄電池や送電網の開発が不十分な現状では、電気の安定供給のために化石燃料に頼らざるを得ない。21年には中国が日本に代わって世界最大のLNG輸入国になる見通し。中国の「爆買い」で日本の調達余力は相対的に絞られる。寒波や猛暑の時期に電気料金が上振れしやすい構造は常態化しそうだ。

参入企業は2.5倍

電力小売りの自由化で参入企業が増えたのは間違いない。資源エネルギー庁によると、小売電気事業者の登録数は21年3月末時点で713社。16年4月の291社から2.5倍になった。新電力と呼ぶ新規参入組は通信や給油、ガスと電気をセットにした新サービスを打ち出すなど、電力大手では打ち出せなかった料金メニューで攻勢をかける。

実際、新電力の料金は総じて電力大手より数パーセント安い。自前で大規模な電源を持たず、コストに占める固定費が少ないためだ。ただ、多くの新電力は卸電力市場から電気を調達して供給する。電気が余れば市場価格は下がり、足りなければ上がる。平時だと電力大手より割安な半面、月々の電気料金が変動しやすい。

通信会社系の新電力と契約する川崎市内在住の40代の会社員。通常の電気料金は月6000円台だが、21年1月に月8000円台に上がった。別の新電力と契約する京都市内の飲食店では、1月の電気料金が10万円と前月比約3倍になった。いずれも寒波で電気の需給が逼迫し、卸電力市場の価格が跳ね上がったためだ。「普段は割安だと感じていた。ここまで上がるとは」と経営者は話す。

新電力の販売シェアは自由化後5年で20%になったが、大規模な電源を持たずに電力調達を卸市場に頼る新電力が多い。大手電力がこぞって料金を引き下げるような競争は起きていない。

一方、自由化の根幹を揺るがしかねない事態も起きた。4月に関電と中部電、中国電力など4社が、7月には九電と関電、中国電など4社がそれぞれ公正取引委員会から独占禁止法違反(不当な取引制限)容疑で立ち入り検査を受けた。工場やオフィスビルなど企業向け分野で、お互いに顧客の奪い合いを制限するカルテルを結んだ疑いだ。

自由化で新電力にシェアを奪われる恐れから、不当な取引に手を染めた可能性がある。経営の効率化を進め、顧客満足度を高めるという企業努力が、地域独占に長く安住した大手電力にはまだ足りない。新電力が安定して電気を調達し、大手との競争環境を整える規制緩和を進める余地がありそうだ。

賦課金1000円時代も

電気料金が上がるのは国のエネルギー政策とも絡む。国は12年、再生エネを普及させるのに必要なお金を広く薄く国民から徴収する制度を始めた。再生エネの割合は20年に22%と16年度から7.4ポイント増えて過去最大になった。再生エネが増えるのに伴い、徴収する賦課金も年々増えた。21年5月からは東電などのモデル家庭で月873円と16年4月時点より91%上がった。

電力中央研究所(東京・千代田)は30年度に賦課金が、今より最大2割超上がると試算する。再生エネの発電コストは年々下がっているものの、賦課金に反映されるのは30年度以降の見通し。再生エネ賦課金「月1000円時代」が現実味を帯びる。

小売り自由化による「生みの苦しみ」は日本だけではない。1990年代後半から00年代にかけて自由化の波が広がった欧州。ドイツでは「年間一括前払い」などの割引サービスを打ち出した新電力の破綻が相次いだ。英国では日本と同様、燃料費の高騰で料金面での恩恵は小さい。90年代後半に自由化に踏み切った米国では一部の州で大規模停電が頻発し、今も自由化を続けるのは全50州の半分未満にとどまる。

電力自由化で後発の日本は、先行した欧米を反面教師にできる利点がある。電源の分散化、再生エネのコスト低減、蓄電池の性能向上、送電網の増強、卸電力など電力市場の透明性の向上など、やるべきことはたくさんある。民間の自由な競争を確保しつつ、安定供給へ政府の監督機能を強める。消費者がもっと恩恵を受けられる電力システムの実現は道半ばだ。

(鈴木大祐

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オリックスの太陽光、電力会社通さず工場に大型売電

オリックスの太陽光、電力会社通さず工場に大型売電

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オリックスは太陽光パネルを設置し、売電収入を得る事業を展開している(小売店の屋上に設置したパネル)

オリックスは太陽光由来の電力を工場などに直接販売する。パネルを大規模に設置し、売電で収入を得る。太陽光の発電事業者は固定価格買い取り制度(FIT)を通じ、大手電力などに売電するのが一般的だった。製造業などで取引先から脱炭素を求められる需要が増えており、電力会社を通さない「直売」モデルに取り組む。

同社は6月、約2200キロワット分の太陽光パネルを、デニム生地製造のカイハラ産業(広島県福山市)の工場屋根に設置する。発電した電力はカイハラ産業に供給し、工場で消費してもらう。曇っている時間帯や夜間については、別途電力会社から電力を調達する。

契約期間は18年で、オリックスはこの間に受け取る電気料金で設置や保守にかかる費用を回収する。世界的な衣料品メーカーを顧客に持つカイハラ産業は、顧客企業から事業の脱炭素化を求められている。今回の取り組みで電力分野の二酸化炭素(CO2)排出量を約12%削減する。

オリックスはこれまで小売店などにパネルを設置してきた。工場に設置するのは初めてで、こうした取り組みでは国内最大規模となる。

太陽光発電業者はFITを通じて電力会社に電気を買い取ってもらうのが一般的だが、2012年の導入時に1キロワット時34~42円だった買い取り価格は、21年度には11~19円に下がった。250キロワット以上の太陽光は入札制で、21年度は10~11円に決まった。

FIT価格の下落で太陽光発電事業の採算が悪化する中、脱炭素を目指す企業に直売する方が、高い価格で販売できることもある点にオリックスは目を付けた。

FITを通さない「非FIT」の再生エネ電力は購入側の企業にも需要がある。企業が再生エネ由来の電力を国内で調達するには①大手電力や新電力などの電力小売事業者から「非化石証書」などの証明書付きのFIT電力を購入する、②設備を自社敷地内に設置し電力を自家消費する、③再生エネ発電事業者から電力小売事業者を通じて非FIT電力を購入する――といった方法がある。

①の「非化石証書」は証書を1キロワット時当たり1.3円以上をかけて取得することが多い。他の方法と比べ一般的には割安だが、化石燃料由来の通常電力などと混ざって供給されることが多い。

こうした背景から脱炭素を顧客企業などにアピールするため、多少コストをかけても再生エネを調達する企業が出始めている。エネルギーを扱う企業の中には、FITを通さずに太陽光電力を買い取って顧客企業に販売する企業も出てきた。

シナネンは太陽光発電のクリーンエナジーコネクト(東京・品川、CEC)から非FIT電力を購入し、顧客企業に販売する事業に乗り出す。25年度までにCECなどから計10万キロワットの非FIT電力を購入する計画。CECは21年10月をめどに、シナネン向けを想定した1000キロワット程度の発電所を建設するなど投資を進める。

シナネンは1キロワット時当たり十数円程度で調達し、顧客への販売時には託送料や手数料で同5円程度上乗せする。通常の電力は、大規模工場の場合は同15円程度で、やや割高になる。それでも「外資系企業やその取引企業からの引き合いが強い」(高松建哉環境エネルギー事業本部長)と言う。

東京ガスは太陽光発電事業者のリニューアブル・ジャパン(東京・港)と非FIT電力購入の契約を結び、早ければ22年にも電力の調達を始める。企業や個人などに販売していく。具体的な電力量などは公表していないが、リニューアブル・ジャパンが約50キロワットの小型発電所を数百カ所以上束ね、東ガスに電力を供給する。

大阪ガスは再生エネ大手のウエストホールディングス(HD)から非FIT電力を購入する。ウエストHDが21年度から開発する数千カ所の小型太陽光発電所から計20万キロワット調達・売電していく。

発電事業者と顧客企業が直接電力を取引する契約は「コーポレートPPA」と呼ばれ、再生エネで先行する欧米で盛んだ。米国ではアップルやグーグルなどが実施。自然エネルギー財団によれば、米国では19年に原子力発電所9基分に相当する約933万キロワットのコーポレートPPAの契約が交わされた。

日本では電気事業法上、電力販売は電力小売事業者を通す必要があるため、事業者として登録しているシナネンや東ガス、大ガスは非FIT電力の「卸売り」に商機を見いだしている。

(柘植衛、落合修平)

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太陽光パネルの無料設置 

太陽光パネル、無料で設置 韓国大手など参入へ
電力販売し費用回収 料金割安、管理で問題も
情報元:日本経済新聞 電子版 2019/8/29

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO49182050Z20C19A8TJ1000/

発電事業者が家庭や企業の屋根に無料で太陽光パネルを設置する代わりに、その電力を購入してもらうというビジネスモデルが広がっている。国内でも、太陽光パネルで世界大手の韓国ハンファQセルズが9月にも事業を開始し、京セラ関西電力も今秋に参入する。家庭や企業は初期投資や保守管理が不要などの利点があり、企業でもSUBARU(スバル)などが導入を計画している。再生可能エネルギーの自家消費の拡大につながりそうだ。

このモデルはパネルの利用者と所有者が異なるため「第三者所有モデル」と呼ばれる。日本では家庭や企業が太陽光でつくった電力の余剰分を一定の価格で買い取ってもらう制度(FIT)がある。一方、こうした優遇策を早期に廃止・縮小した米国では、住宅用の太陽光発電の6~7割が同モデルを採用しているとのデータがある。

日本でも制度の見直し時期を迎えており、同モデルを使ったパネル設置が増えると見込まれている。調査会社の富士経済(東京・中央)によると、同モデルの国内市場規模は2018年度の12億円から、30年度には823億円に拡大見通しだ。

日本で太陽光パネルのシェア首位のハンファQセルズは9月にも一般住宅など向けにサービスを始める。顧客はハンファ製の太陽光パネルを無料で導入し、発電した電力を購入する。ハンファはパネルなどのコストを電力料金に上乗せして回収する一方、料金は電力会社から購入するプランよりも安く設定する。

設備は原則として10年後に顧客に無料で譲渡する。ハンファの18年のパネル販売量は17年に比べて17%増の約90万キロワットだが、新サービスで攻勢をかける。

京セラと関電の共同出資会社、京セラ関電エナジー(京都市)も新築住宅など向けに太陽光パネルを設置し、10年で無料譲渡するサービスを始める。太陽光発電の不足分は関電が供給する。顧客が利用する電力の料金プランは通常の大手電力と比べ、年間で1万円前後割安になるという。

第三者所有モデルが国内でも普及し始めた背景には、太陽光発電を取り巻く環境の変化がある。日本では家庭用太陽光の余剰電力の買い取り制度が09年に始まった。ただ現在の買い取り価格は当初よりも下落。家庭側が売電するメリットは薄れており、今後は自家消費するケースが増える見通しだ。

スバルは群馬県の拠点に第三者所有モデルの太陽光発電設備を導入する

スバルは群馬県の拠点に第三者所有モデルの太陽光発電設備を導入する

一方、太陽光パネルが普及し、価格も安くなっている。事業者側は、パネルを無料で提供しても長期的に電力料金で回収して採算が取れる環境になってきた。

家庭だけでなく、第三者所有モデルで太陽光パネルを導入しようとする企業も増えている。世界の投資市場で環境対策などに熱心な企業を評価する「ESG投資」が広がっていることも、太陽光パネルの導入意欲の向上につながりそうだ。

スバルはNTTファシリティーズと組み、同モデルを使い、19年度中に新車用部品を扱う群馬県の拠点に太陽光パネルを設置する計画だ。つくった電力をその場で使い、この工場で排出している二酸化炭素(CO2)を約4割減らす。

イオン三菱UFJリースの子会社と組み、年内に滋賀県の商業施設で同様の取り組みを始める。数年内に約200店にまで広げる方針だ。環境対応の観点からもこうした動きが広がる可能性がある。

一方、先行する米国ではトラブルも起きている。米テスラは16年に太陽光パネル設置大手のソーラーシティを買収。だが、パネルの供給先の米ウォルマートから、店舗での火災を起こす原因になったとして19年8月に提訴された。ウォルマートはテスラが設備の欠陥を修理せず、放置していたとして損害賠償を請求している。

第三者所有モデルは割安感や利便性をアピールしやすいが、保守管理上のリスクなどがある。一定の規模による競争力がなければ、収益確保が難しい面もある。国内でも今後は価格競争による淘汰などが進みそうだ。(河野祥平)

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蓄電池の将来市場情報

蓄電池、中国企業が日本に 最大手CATLが住宅向け 日経 2019/7/25


車載電池の世界最大手、中国の寧徳時代新能源科技(CATL)は25日、住宅・産業向けに低価格の蓄電池を2020年に日本で発売すると発表した。11月から太陽光発電の固定買い取り制度の期間が順次終わるため、各家庭では太陽光で作った電力を外部販売から自家消費に切り替えるケースが増える見込みだ。CATLはこれを商機とみて、高価格がネックだった蓄電池で価格破壊を起こし、市場を取り込む。

CATLはネクストエナジーと組み、日本の蓄電池市場に参入する(25日、都内)

CATLはネクストエナジーと組み、日本の蓄電池市場に参入する(25日、都内)

CATLは太陽光発電設備施工のネクストエナジー・アンド・リソース(長野県駒ケ根市)と提携した。CATLが電池単体などの部材を供給してネクストエナジーが組み立て、20年夏ごろに発売する見込みだ。

住宅用蓄電池は一戸建てで使う容量10キロワット時のモデルの場合、工事費も含めた導入費用は200万~250万円が相場だという。同社は蓄電池の新製品本体で100万円を下回る価格も想定し、伊藤敦社長は導入費用全体で「3~5年後には現在の4分の1程度の価格を実現したい」と語る。

国内では発電事業者が家庭や工場などの屋根を借り、太陽光発電設備を置く「第三者所有(TPO)モデル」が注目される。家庭や企業の初期費用は不要で、電気料金が抑えられる。両社はまず低価格の蓄電池をTPOで事業者を通じて家庭などに提供し、家庭への直接販売も視野に入れる。

11年創業のCATLは、世界最大のEV市場になった中国で政府の後押しを受け、17年には車載電池の出荷量でパナソニックなどを上回り、世界首位になった。独BMWや独フォルクスワーゲンなどに供給している。

18年の生産量は21.31ギガ(ギガは10億)ワット時で、20年には倍の50ギガワット時まで引き上げる。豊富な資金力を生かし、質の高い電池を低価格で供給することが可能とされる。

日本では価格の高さから太陽光発電向け蓄電池が普及していない。日本能率協会総合研究所(東京・港)によると、日本の家庭用蓄電池市場は17年度で800億円にとどまる。業界関係者は「蓄電池本体で50万円、太陽光発電設備なども含め150万円程度にならないと普及しない」とみる。

CATL幹部は「日本は戦略的に重要だ」と話す。太陽光の電力買い取り制度終了で市場環境が大きく変わるのにあわせて、攻勢をかける。

家庭用の蓄電池はパナソニックなども生産する。同社やシャープなどの日本勢は太陽光パネルで2000年代半ばに世界シェア上位を占めたが、安い中国製品におされ苦境が続く。蓄電池でもトヨタ自動車がCATLと7月に業務提携を発表するなど中国勢の力が強まっており、日本勢は太陽光パネルと同じ道をたどる可能性もある。

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平成の大合併の余波

合併自身は良いことだが、この間に議員歳費などが吸収先自治体に合わされ、自治体の運営コストはバブル化をしているのではないか。円高ドル安で企業は経済競争力を失い、国民はチャレンジする心理的機会を失った今、先進国という神話から抜け出す機会ではないだろうか。割の良い地方議員の歳費を求めて働かない、職業議員化した現状は不健全。行政のスリム化が歳費・予算の大盤振る舞いを招いている現状解決には、ここで書かれているように住民の気づきにあるのだが、なかなかそれが難しい課題でもある。


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賃金水準 貧者のサイクル

賃金水準、世界に劣後 脱せるか「貧者のサイクル」

情報元 日本経済新聞 電子版 2019/3/19

統計のマジックが問題になっているが、そもそも、偽りの統計から真っ当な議論が出来るステージアップに繫がる資料として貴重な記事かと思う。


日本の賃金が世界で大きく取り残されている。ここ数年は一律のベースアップが復活しているとはいえ、過去20年間の時給をみると日本は9%減り、主要国で唯一のマイナス。国際競争力の維持を理由に賃金を抑えてきたため、欧米に劣後した。低賃金を温存するから生産性の低い仕事の効率化が進まない。付加価値の高い仕事への転換も遅れ、賃金が上がらない。「貧者のサイクル」を抜け出せるか。

「頑張った人、成長し続ける人に報いたい」。トヨタ自動車は2019年の春季労使交渉で、ベア見直しを含めた賃金体系の再考を提案した。労使で協議を続ける。

新卒を一括採用し、終身雇用と年功序列で、昇進や昇格に極端な違いを出さない。トヨタはこんな日本的な人事・賃金の先導役になってきた。

ところが、電気自動車や自動運転技術などで米IT(情報技術)巨人がライバルとなり、競争環境は激変した。人工知能(AI)といった先端分野は人材の争奪戦になった。「生きるか死ぬかの戦いだ」(豊田章男社長)。危機感がトヨタを「脱ベア」に突き動かす。

デフレ不況と円高、過剰な設備と人――。1990年代後半から、製造業などは賃下げを含めた賃金抑制に動き、気がつけば日本の賃金は世界から大きく取り残された。

経済協力開発機構(OECD)は残業代を含めた民間部門の総収入について、働き手1人の1時間あたりの金額をはじいた。国際比較が可能な17年と97年と比べると20年間で日本は9%下落した。主要国で唯一のマイナスだ。英国は87%、米国は76%、フランスは66%、ドイツは55%も増えた。韓国は2.5倍。日本の平均年収は米国を3割も下回っている。

日本は金融危機に直面した97年をピークに減り始め、12年までに12%減。大企業は定期昇給などで1%台の賃上げを続けたが、非正規社員も増え、1人あたりの時給は減った。時給の最低水準を定めた「最低賃金」(最賃)はこの3年間で3%台の上げが続く。ただ、対象はパート労働者ら一部にとどまり、全体を押し上げるには至らない。

その背景には労働生産性(付加価値)の低迷がある。1人の働き手による1時間当たりの成果を示す生産性の上昇が賃上げには必要とされる。

長時間労働がはびこった日本はこの半世紀、先進7カ国のなかで最下位。OECDによると17年は47.5ドルと前年から1%程増えたが、加盟国36カ国で20位という低位置は変わらない。米国(72ドル)、ドイツ(69ドル)に水をあけられている。

なぜ生産性が上がらないのか。逆説的だが、日本の企業が賃上げに慎重な姿勢を続けてきたことが生産性の低迷を招いたとの見方がある。

「賃上げショックで生産性を一気に引き上げるべきだ」。国宝・重要文化財の修復を手がける小西美術工芸社のデービッド・アトキンソン社長はこう訴えている。

ゴールドマン・サックスの名物アナリストだった同氏による主張の根拠はこうだ。低賃金を温存するから生産性の低い仕事の自動化・効率化が実施されず、付加価値の高い仕事へのシフトが進まない。その結果、生産性が上がらずに賃金も上がらない。いわば貧者のサイクルに日本は陥っているというわけだ。

アトキンソン氏は最賃の毎年の上げ率を現在の3%台から5%台に加速させるべきだという。低生産性の象徴とされる中小企業に、省力化の設備投資や事業の変革を迫る起爆剤になるとみる。英国は99年に最賃を復活させて18年までに2倍超に上げた。低い失業率のまま生産性が高まった。

最賃の形で賃金を強制的に上げることが正しいかは議論が分かれる。ただ、世界的にみて劣る日本の生産性を上げていかないと国際競争に勝ち残れないのは間違いない。

賃金の変革に動き出す企業も出てきた。

フリマアプリのメルカリ。16年からエンジニアらの新卒採用を本格的に始めた。面接で候補者のインターン経験や学術論文などを含めて能力・技能を見極める。具体的な金額を役員に諮り、初任給を決める。最大で数百万円の差がつく。18年は70人あまりが入社した。

「賃上げなくして成長はない。ただしもうかるビジネスモデルがあってこそだ」。「いきなり!ステーキ」を展開するペッパーフードサービスの一瀬邦夫社長は断言する。1月にベアと定昇で平均6.18%を賃上げした。18年は230店を純増。賃上げで事業を拡大する好循環につなげる。

働き手の意欲を高め、優れた人材を引きつける賃金の変革をテコに、付加価値の高い仕事にシフトしていく潮流をつくり出すことが不可欠だ。

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リース取引、資産計上へ 会計を国際基準に

2019/3/8付情報元日本経済新聞 朝刊

機械や設備を購入せずに借りて利用する「リース取引」に関する会計基準が変わる。今までは企業の財務状態を表す貸借対照表(バランスシート)に記載する必要はなかったが、ルールが変わればリースの金額を明記する必要が生じる。上場企業全体を表す「日本株式会社」の資産は17兆円増える計算。リース離れの懸念に加え、資産効率を表す指標は数値上悪化するが、国際標準並みに財務の透明性を高める。

日本の会計基準を作る企業会計基準委員会(ASBJ)が8日に開く会合で見直し議論に着手、月内の合意を目指す。慎重論も残り、実際の導入までは草案作りや意見募集などで2~3年かかる可能性がある。

国際会計基準(IFRS)は2019年1月、米国会計基準は18年12月から始まる会計年度でこれまで簿外だったリース資産も全て計上するルールを導入済み。会計基準の国際化(総合2面きょうのことば)上、日本基準の遅れが課題だった。

リースは2種類に大別される。購入に近い「ファイナンスリース」と、賃貸借である「オペレーティングリース(オペリース)」だ。事務機やパソコンなどに多いファイナンスリースは既にバランスシートに計上していたが、今回対象になるオペリースが残っていた。船舶や飛行機、倉庫など耐用年数の長いものが多い。

影響は不動産や小売業、物流、海運など多方面に及ぶ。海運では船舶、空運では航空機材でリースを多く活用する。物流の倉庫もリース物件が多い。賃貸物件をオーナーから借り上げ、賃料保証するビジネスモデルのレオパレス21や大東建託では新たに多額の資産と負債の計上が必要になる。

あくまで会計処理上の問題だが、経営目標として総資産利益率(ROA)などを掲げる企業の数値悪化が投資家の判断に影響する可能性はある。財務基盤の弱い会社にとって有利子負債額の増加は重荷だ。

現行の日本基準で支払いリース料は損益計算書上の費用だが、バランスシートには記載せず有価証券報告書に注記の形で載せている。日本経済新聞社が約1250社の注記を集計した結果、合計額は約17兆円に達した。既に計上が決まったIFRSや米国基準を使う企業分も含めると計25兆円弱。日本の上場企業の資産が2%膨らむ規模だ。

リース業界への影響も大きい。代金を経費に計上するだけの簡便な会計処理は手軽なリースのメリットの一つだった。購入に比べ初期費用を抑えられるメリットは変わらないが、資産計上して毎年減価償却の処理をする手間が生じる。「オフバランスという利点が薄まれば、リース設備を利用して企業が投資する意欲が弱まる」との声もくすぶる。

税務上、損金算入できる利点については「特に大きく変わらないのではないか」(大手監査法人)との見方が多いが決まっておらず、将来税務上の取り扱いを巡り議論になる可能性もある。

ASBJも産業界の声に鑑み、リース会計の見直しに慎重姿勢をとってきた。だが、IFRSや米国基準が次々新ルールを導入する中、これ以上遅れれば投資家から日本の財務諸表の信頼性を疑う声が出かねないとの懸念が出ていた。

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事業用太陽光、買い取り価格22%下げ

19年度14円、値下げ圧力一段と

2019/1/9付 情報元 日本経済新聞 朝刊

経済産業省は再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)で、2019年度の太陽光発電(事業用)の価格を1キロワット時あたり14円とし、現在の18円から22%下げる。安い価格で発電する事業者から順番に買い入れる「入札制」の対象も出力500キロワット以上と、従来の2千キロワット以上から広げる。コスト重視を徹底するが、普及との両立が課題になる。

FITでは再生エネで作った電気を大手電力が一定期間、同じ価格で買い取る。費用は消費者の電気料金などに上乗せされる。事業用の場合、20年にわたり決まった価格で買い取る。東日本大震災や原子力発電所の事故を受けて12年に始め、当初は1キロワット時あたり40円だった。19年度は3分の1程度まで下がる。

買い取り価格を下げるのは、消費者や企業の負担が重いためだ。18年度の電気代への上乗せは2.4兆円にのぼる。経産省によると世界では太陽光の発電コストが17年上半期で1キロワット時あたり9.1円。ドイツでは18年の買い取り価格が1キロワット時あたり8.3円だ。

価格を下げるため、買い取り枠を設けた上で安い電力を提示する事業者から順番に買い入れる「入札」の対象も広げる。対象の事業者は価格競争を迫られる。

日本でも太陽光発電が普及しパネルの設置費用は下がった。低金利もあり、経産省は投資コストを低く見積もっている。

ただ、2割超の下げは大きい。18年度には上限価格の15.5円を非公開にして2千キロワット以上のメガソーラーから入札を募ったところ、入札価格がいずれも上限を上回り、成立しないという事態があった。14円は大規模な事業者でも厳しい水準で、小規模な発電を計画する事業者は淘汰される可能性がある。

再生エネは普及への目配りもいる。政府はエネルギー基本計画で再生エネを「主力電源」と位置づけ、電源に占める割合を現状の16%から30年度に22~24%まで上げる目標を掲げる。太陽光は現状が5%で、30年度は7%分を目指す。

一方で18年秋には、九州電力管内で太陽光発電が一時的に余り、電力会社が買い取り切れないということもあった。太陽光をうまく使うインフラ作りも課題になる。

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「太陽光バブル」の後始末 価格引き下げで官民紛糾

「太陽光バブル」の後始末 価格引き下げで官民紛糾    日本経済新聞

太陽光発電の固定価格買い取り制度(FIT)の見直し方針が波紋を広げている。政府は2012~14年度に認定を受けたまま発電を始めていない案件で買い取り価格を減額する方針だが、過去の計画に遡って条件を変更することに一部の発電事業者から異論が出ている。発電しない事業者を淘汰し国民負担を軽減するという大義名分はあるものの、制度への不信感が広がれば再生可能エネルギーの普及に向け禍根を残しかねない。

FITを導入した12年以降、メガソーラーの開発が急速に進んだ(JRE土浦太陽光発電所)

FITを導入した12年以降、メガソーラーの開発が急速に進んだ(JRE土浦太陽光発電所)

■買い取り価格半額に

買い取り価格を21円に引き下げる――。経済産業省が10月22日に提示した省令の見直し案は未稼働案件に厳しい条件を突き付けた。

メガソーラーなど事業用の太陽光発電施設では、つくった電気を固定価格で大手電力会社に売っている。FIT導入直後の12年度の買い取り価格は1キロワット時あたり40円。13年度に36円、14年度は32円と徐々に減額されたが、18年度(18円)に比べると高い。この12~14年度認定の未稼働案件について、送電網に電線をつなぐ工事の着工申し込みを電力会社が19年3月までに受領しなければ買い取り価格を大幅に引き下げる。

当初、FITで買い取り価格を高く設定したのは、東日本大震災後の電力不足を補い、太陽光発電の普及を促すため。その狙い通り、建設会社や投資会社、外国企業などさまざまなプレーヤーが参入した。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、国内の太陽光発電の導入量は15年に996万キロワットと5年で約10倍に増えた。

ただFITには当初、発電開始の期限がないという制度上の「穴」もあった。そのため太陽光パネルの価格下落を待って投資を抑えて利益を増やそうと考える事業者が続出。買い取り価格が高い認定名義を転売するブローカーも出るなど、エネルギー需給の実態とかけ離れた「太陽光バブル」とも呼べる様相を呈した。

■経産省は国民負担軽減を優先

経産省は今回の制度見直しについて、「再エネの主力電源化に向けて国民負担軽減は待ったなし」との立場だ。

12~14年度に認定された未稼働案件は2352万キロワットと、17年度までに認定された事業用太陽光の約3分の1に相当する。再エネの買い取り費用の一部を電力価格に上乗せして家庭や企業に転嫁している賦課金は既に約2兆4000億円で消費税1%分。見直し対象の未稼働案件が動き出せば約7000億円が上乗せされるとみられ、「30年度に3兆1000億円」としていた当初水準に大幅に前倒しで到達しかねない。

副作用はほかにもある。電力会社は認定された太陽光のために送電線を空けている。未稼働案件が送電線が抑える状況が続けば、風力や地熱など他の再エネの開発計画が頓挫する恐れもある。

ただ過去の案件に遡及して価格引き下げを適用することに異論も出ている。

「一律に買い取り価格を変えるのは理不尽」。米ゴールドマン・サックス系の再エネ発電会社、ジャパン・リニューアブル・エナジー(東京・港、JRE)の竹内一弘社長は異論を唱える。JREは全国37カ所で約9万世帯分を賄う太陽光発電施設を運営する。14年に土地の利用権などを取得したものの、環境影響評価(アセスメント)に3年かかり22年に運転を開始する予定の案件では減額される可能性がある。

12年度に認定を受け、九電工京セラなどが長崎県佐世保市の宇久島で計画している国内最大のメガソーラーも買い取り価格が下がりかねず、関係者の間では実現性が危ぶまれている。

発電施設向けの融資契約を手がけるベーカー&マッケンジー法律事務所の江口直明弁護士は「事業者によっては土地の賃借契約の解除や融資の停止なども余儀なくされる」と指摘する。同弁護士は制度変更の対象となる案件の投資額は合計で1兆円を超えるとみる。

過去に遡及して条件を変更する前例が作られることについて、ある上場企業の発電事業担当者は「政府が約束を覆すとは法治国家とは思えない」との声も上がる。見直し案について21日まで募集しているパブリックコメントで、8日時点で経産省に寄せられたコメントのうち9割は反対意見という。

海外では中国が5月に太陽光のFIT価格を引き下げた。買い取りコストが膨らむのを抑える狙いとみられる。太陽光は風力や水力など他の再エネと比較しても設置や運転が容易なため一気に普及が進む半面、副作用が出やすい。各国の引き締め策で18年は太陽光パネルの世界市場は初めて縮小する可能性がある。

もっとも異例の制度見直しには訴訟リスクも伴う。稼働済みの案件も含めて買い取り条件を見直したスペインでは訴訟が相次ぎ、政府が損害賠償を命じられた。

■長期視点不可欠に

外部の専門家の見方はさまざまだ。エネルギー政策に詳しいみずほ情報総研の蓮見知弘チーフコンサルタントは「短期的な利益を求める事業者が退出しても、中長期の視点で電源を開発する事業者は残るだろう。今後は地道に取り組む企業を後押しする政策にカジを切るべきだ」とみる。

東京大学の高村ゆかり教授は「企業の投資意欲が低下するため、過去に遡っての変更はよほどの理由に限られるべきだ。今回も申し込みの受領期限を延ばすなどの措置が考えられる」と指摘する。

政府は臨時国会で洋上風力の開発を促す法案の成立を目指している。多様な再エネへの投資熱を冷まさないためにも、企業が腰を落ち着けて取り組める環境づくりが不可欠だ。(花田幸典)

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未稼働の太陽光にメス

未稼働の太陽光にメス 日本経済新聞 朝刊
(経産省、電力買い取り減額検討 割高既得権の業者に照準 2018/10/5付   

経済産業省は太陽光発電の固定価格買い取り制度(FIT)の見直しを加速させる。2012年に制度を始めたばかりの頃に認定を受けたまま発電を始めていない案件について、買い取り価格を減額する方向で検討する。価格が高い未稼働案件が稼働し始めれば、企業や家庭の負担は増えるため対策を急ぐ。事業者の反発も予想され、調整は難航する可能性がある。

太陽光の普及を急ぐため、買い取り価格を先行する海外よりも高く設定していた(熊本県内の太陽光パネル)

太陽光の普及を急ぐため、買い取り価格を先行する海外よりも高く設定していた(熊本県内の太陽光パネル)

FITは11年の東日本大震災や原子力発電所の事故を受けて12年から始まった。経産省が個人や企業を再生可能エネルギーの「発電事業者」と認定し、つくった電力を長期間、固定価格で買い取ることを電力会社に義務付ける。電力会社は買い取り費用を電気料金に上乗せする。原発や火力などに依存した電源構成を見直し、再生エネを普及させる狙いがあった。

太陽光でつくった電力の買い取り価格はFITを始めた当初の12~14年度に、事業用で1キロワット時あたり32~40円だった。現在の18円を大きく上回る。海外よりも高く設定し、普及を促した。

高値の時に認定を受けておけば、発電開始が何年後でも認定時の条件で高く売電できる。制度の発足当初は発電パネルの価格も高かった。増産効果で安くなった海外産の登場を待って発電を始めれば、事業者は利益を増やせる。

実際、こうした制度の穴をついた事業者は多い。特に買い取り価格が高値だった12~14年度の3年間に認定された案件で、未稼働分は約2400万キロワットにのぼる。同期間に認定された全容量の4割強を占めている。

経産省が8月に開いた会議では、未稼働分の太陽光がすべて発電を始めた場合、電力会社の買い取り額は1.3兆円も膨らむとの推計が出された。再生エネの買い取り価格を電気料金に転嫁した額は18年度に2.4兆円。さらに膨らみ続けると、個人の負担増に加え、企業の産業競争力も損なうと懸念される。太陽光の買い取り額ばかりが膨らむと他の再生エネの普及も阻みかねない。

こんな状況を是正するため、経産省は未稼働の太陽光対策を加速させることにした。過去の未稼働案件について買い取り価格を認定時より減額することが軸になる。事業者の権利を取り消す厳しい措置を検討すべきだとの声もある。10月中に審議会を開いて、具体的な議論を始める。

これまでも17年施行の改正FIT法で、未稼働案件のうち電力会社との契約がないものを失効させる措置を始めた。それでも電力会社と売電契約を結びながら稼働していない案件は多く、規制を強める必要があると判断した。

経産省幹部によれば、買い取り価格が高値の時に再生エネ事業の権利を手にし、そのまま寝かせておいた業者は外国資本に多いという。第三者に権利を転売する業者もあり、未稼働の多くはこうした「空おさえ」と呼ばれる案件。規制強化の主な対象として想定される。一方、地元自治体や近隣との調整など、太陽光発電を稼働させる意志はあるのに動かせない例も一部にあるとみられる。

そもそもFIT制度に穴を残したのは政府の責任ともいえ、正当な理由もなく権利を取り上げられれば、訴訟が頻発しかねない。未稼働案件の中で、買い取りを減額する対象をどう線引きするのか課題は残る。

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太陽光の自家消費支援

太陽光の自家消費支援  の記事が目についた。設置先企業は自家消費した電力量に応じて費用を京セラに支払う仕組み。契約期間は工場用の高圧電力契約を元にしたものとみられるが、業務用電力契約の場合、その相対的価格が高いこと考えれば、期間は10年以下の契約を設定できるかどうかが普及の要では無いだろうか。基本的にオペレーティングリース方式ということで運用ということになるであろうが、今までは少なかったのでしょうか。普及を期待したい。

2018/7/29付 情報元 日本経済新聞 朝刊

京セラや太陽光発電(総合2面きょうのことば)施工大手のウエストホールディングス(HD)は、企業の自家消費用の太陽光設備導入を支援する事業に乗り出す。固定価格買い取り制度(FIT)で売電する企業が多かったが、買い取り価格下落で自家消費に転換する動きが広がる。中国のパネルメーカーが安値攻勢を強める中、単品売りを脱してサービス収入を得る事業を拡大して生き残りをめざす。

太陽光の発電コストの大部分はパネルの設置など初期費用が占める。パネルの価格下落で発電コストが下がったのに加え、環境などに配慮した企業を評価する「ESG投資」の広がりで、再生可能エネルギーを自家消費して二酸化炭素(CO2)排出量を抑えたい企業が増えている。

京セラは東京センチュリーと組み、太陽光発電システムを初期費用ゼロで導入できるサービスを年内に始める。工場やオフィスなどの屋根に太陽光パネルや架台を設け、発電した電力は設置先企業に供給する。設置先企業は自家消費した電力量に応じて費用を京セラに支払う仕組み。費用は大手電力から買電した場合と同程度になる見込み。

企業は初期費用がかからないのに加え、月々の電気代を増やさず太陽光発電を導入できる。機器の保守は京セラが請け負う。契約は15~20年で、終了後は機器の買い取りや返却、契約延長を選べる。

ウエストHDも8月から、スーパーや工場向けに一定金額で太陽光パネルを貸与するサービスを始める。設置から12~15年たつと、設備は設置先企業に無償譲渡される。

▽…太陽光が当たると発電する太陽光パネルを使った発電方式。石油や石炭などの化石燃料と異なり、発電時に二酸化炭素(CO2)を排出しない。また保守を除けばランニングコストはほぼかからない。風力や地熱発電のように設置場所の選定や保守が難しくないため、導入しやすい再生可能エネルギーとして注目されている。

▽…普及のきっかけとなったのが、政府が一定の価格で再生エネを買い取る制度(FIT)だ。日本が2012年に始めるなど、世界各国で導入され、大規模太陽光発電施設(メガソーラー)に投資が集中した。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の調べでは、17年末の太陽光の発電容量は3億8567万キロワットと、5年で約4倍に増えた。
▽…需要増加を受け、中国の太陽光パネルメーカーが積極的に増産し、パネルの価格は12年から約6割下落。日本では太陽光の発電コストが高圧の電気料金(1キロワット時あたり15円前後)を下回る「グリッドパリティ」になるケースが増えている。FITでの買い取り価格が年々引き下げられた影響もあり、太陽光を自家消費に回す企業が増えている。雨が少なく日差しの強い中東では1キロワット時あたり2セント(2円)前後まで発電コストが下がっている。
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家庭の太陽光に「19年問題」160万世帯分が宙に

2018/5/6 情報元日本経済新聞

家庭の太陽光発電が2019年、試練を迎える。余った電気を高く買ってもらえる10年間の期限が切れ始め、23年までに160万世帯が発電する大量の電力が買い手を失う恐れがある。政府は再生可能エネルギーを国の主力電源に育てる方針だが、家庭が太陽光パネルを維持するインセンティブは減退する。「2019年問題」とも呼ばれるこの課題。ドイツなど再エネ先進国にならい、「窮地」を「商機」に変える試みも広がる。

 「買い取りが終わると聞いて驚いた」。千葉市の男性(75)は99年に200万円以上をかけて太陽光パネルを設置。09年に高額買い取りが始まると発電量の半分を自宅で使い、残りを売電し月1万円前後の収入を得ていた。19年以降は売電収入が大きく減る見通しだ。

政府は09年、家庭の太陽光パネルでつくった電気の余剰分を10年間にわたり一定価格で買い取る制度を始めた。東日本大震災を経て拡張された制度は「固定価格買い取り制度(FIT)」と呼ばれる。

家庭の消費電力は昼は少なく夜に増える。ただ太陽光は昼間しか発電できないため、余った電気を誰かが引き取る必要がある。FITでは再生エネを一気に広げようと、1キロワット時当たり48円という破格の値段で電力会社に買い取りを義務付けた。

一般的に10年前後で設置費用の元が取れる水準で、計200万世帯がパネルを設置。国の電源構成に占める再生エネの比率は震災前の10%から16年度に15%に増すなど一定の成果を収めた。

ただ、買い取り費用は家庭や企業が使う電気代に上乗せして徴収される。この国民負担を抑えるため、高額での買い取りは10年の期間限定という条件が付いていた。期限切れを迎える家庭は19年だけで約53万件、23年までに160万件に達する。一戸一戸の発電能力は微々たるものだが、総計では計約700万キロワットと大型の原子力発電所7基分の電力が宙に浮く恐れがある。

高額での買い取り期限が切れた後はどうなるのか。

まず電力会社の買い取り義務はなくなる。このため余った電気を無償で電力会社に提供せざるを得ない世帯が大量に発生する恐れがある。経済産業省を中心に対策を協議中で、新電力など電力会社が個人と相対で契約を結び電気を買い取る仕組みが有力だ。ただ買い取り価格は「10円以下と従来の5分の1になるだろう」(業界関係者)。

資源に乏しくエネルギー自給率が1割に満たない日本にとって、再生エネルギーの普及は悲願。19年以降の期限切れで買い手を失った個人の不満が広がれば、再生エネ普及の逆風になる。

だが、隘路(あいろ)の中で光明も見え始めた。カギは家計の防衛策だ。

家庭の選択肢は大きく3つある。何もせずに無償で電力会社に電気を渡すか、5分の1程度の価格で売電を続けるか。そして第3の道が、余った電力を蓄電池にため夜間に使ったり近隣で融通したりする「地産地消」の選択肢だ。

これまでは余った電気を高額で電力会社に売ればいいため、蓄電や地域間融通の機運は高まらなかった。だが19年以降、状況はがらりと変わる可能性を秘める。

パナソニックホームズは近隣世帯で電気を融通し合う「仮想発電所」(VPP)の実証に乗り出した。余った電気を地域の電線を通じて近隣世帯に安く「お裾分け」する仕組みで、電力会社から高額な電気を買う量を減らせる。太陽光発電協会の平野敦彦代表理事(ソーラーフロンティア社長)は「家庭が地域の電気生産者になる」と期待する。

京セラは自宅に蓄電池を備える個人が増えるとにらみ、電気を電気自動車(EV)のバッテリーや小型蓄電池にため、夜間に利用できる電力変換システムを開発、年内に発売する。「電気の完全消費を目指す」(幹部)

モデルケースとなるのが、先行するドイツだ。地域エネルギー公社「シュタットベルケ」が地方都市など約1千カ所に拡大。太陽光や風力を使い地元の企業や個人がつくった電気を買い取り、地域に再供給する。その収益で交通機関や生活サービスを運用し、30万人近い雇用も生んだ。

売上高は全体で15兆円に上り、国内の電力シェアは約4割と大手電力会社をしのぐ規模に発達した。地域が電力の消費者であると同時に生産者となり、持続的なエネルギー循環の仕組みを築いた形だ。

再生エネの普及には地域の実情にあった仕組み作りが欠かせない。一戸建てが多く膨大な面積の屋根を抱える日本の国土で、どう地産地消を促すのか。2019年問題を好機とし、再生エネの枠組みを一歩先に進める必要がある。(安田亜紀代、大平祐嗣)

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大東建託、電力小売りから撤退

2017/11/25 日本経済 大東建託が電力小売りから撤退する。グループの新電力会社で、販売電力量シェア第5位の大東エナジーが11月、不採算を理由に契約者に電力会社の切り替えを求める通知を送付し始めた。管理物件に安い電力を供給して契約を増やしてきたが、卸電力市場への依存により市場価格の変動への対策が甘く、採算が合わなくなった。異業種参入の契機となった電力小売り全面自由化から1年半超。企業淘汰の波が大手にも押し寄せてきた。

大東建が建てたアパート

 

大東建託は2014年に大東エナジーを設立した。同社は卸市場など外部から電力の大半を調達して小売りするビジネスモデルを展開してきた。

全国の大東建託グループの賃貸住宅の入居者を対象に、電気代が大手電力より3~5%安く、家賃と電気代をセットで支払えるサービス「いい部屋でんき」を提供。経済産業省によると、今年4月時点の家庭向け新電力販売シェアは3%。東京ガス大阪ガスなどに続く5位だった。

しかし、8月末に同サービスの受け付けを中止した。11月に入ってから、既存の顧客に対して他の電力会社へ契約切り替えを求める通知を出し始めた。18年3月までに全契約者に発送するという。

発送書類には、切り替えられる電力会社の一覧や手続き方法を記載した。発送後、1カ月以内に電力会社を切り替えるよう求めている。

東ガスやJXTGエネルギーなどは自前で大型発電所を持ち、市場価格の変動の影響が少ない。一方、発電事業者と事前に相対契約を結ぶなど、卸市場だけに頼らずに電力の調達先の多様化などリスク分散を徹底する新電力もみられる。大東建託は「市場価格の高騰に加え、賃貸住宅は入退去が激しく電力顧客管理システムの対応が追いつかなかった」と説明。電力需給が逼迫する夏場の価格上昇など、市場価格が大きく変動した際のリスク管理が不十分で採算難に陥ったもようだ。

16年4月に電力小売りが全面自由化されると、既存顧客へのサービス向上を目的にガスや通信、鉄道、不動産など異業種が相次いで小売事業に参入、新電力は約400社にふくれあがった。

しかし、16年4月に企業や自治体向けに小売りしていた日本ロジテック協同組合(東京・中央)が破産した。顧客獲得のために採算を度外視した安値販売で資金繰りが悪化したためだ。

17年10月にはオリックスが、マンション1棟単位で電力を販売する事業を関西電力に175億円で売却した。7万6千件の顧客を抱え、事業自体は黒字だったものの「今後の成長が見込めない」として譲渡を決めた。

電力事業に不慣れな異業種からの参入で、電力の調達や需給の管理がずさんな新電力は多い。電気料金の安さを売りに顧客を獲得した後、資金繰りに行き詰まる新電力が今後も出てくる可能性がささやかれている。

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